第8話 ブラック家庭内手工業(企業)と冒険の始まり

「先生、起きてください。こんな所で寝ていると風邪を引きますよ!」

 ボクちゃんの声がする。久し振りだなぁ、元気だったか?


「なに寝ぼけているんですか? もうすぐ飛行機シャトルの時間ですよ、起きてくださいよ。」

 え、どこに出掛けるんだ?


「この前、地震のあった場所ですよ。先生が言っていたじゃ無いですか?【氷の柱】を埋めに行くんだって。ボクは先生の全てを受け継ぐんですから一緒に行くんです」

 あ…、ああそうだった。

 震度七を出した場所があったんだっけ、物理的に元に戻すことは出来ないが、震源地の連鎖反応を鈍くすることは出来る。ボクちゃんの言っている【氷の柱】で。


氷の柱アイス・ピラー】をその震源地近くで生成させることで、その後の被害を少なく出来る。上空から突き刺す訳では無いから、物理的には何も変化は無いのだが…。

 なんと言っても格段に余震の回数が減る。それだけは確実なのだ。

 今回、ボクちゃんを連れて行くことになっていたのは、一連の【流れ】というものを感じて欲しかったのだ。

 思考、想像、創造、魔法願いという、その流れを。

 ああ、そうか。いままで見ていた夢の中で簡単に転移出来ていたのはこれを繰り返していたからか。納得した。

 台風を小さくするために渦巻きを創ると思考し想像する。

 その想像から魔法が発動され、台風が小さくなる。

 思い通りの効果を思い通りの場所で発動させる。

 それは座標をしっかりと把握していなければ難しい。普通、目の前の出来事なら対処出来ても、巨大な台風を目の前にすることなど不可能だからな。


「先生、聞いてます? 起きてください! ボクはどこまでもついて行きますから!」

「分かった、起きるよ。」

 自分が言葉を出した瞬間、目覚めた……。


「………。」

 あまりの鮮明さにどちらが夢なのか判断が付かず、ただ呆然と起き上がったまま、俺は動けないでいた。

「………。」

 一番身近にいたボクちゃんの声がふと蘇ってきてしまったことに驚きを隠せず、つぅと一筋涙が零こぼれ、思わず遠い世界に来てしまったのだと気付いてしまった。



 この日、俺は二歳の誕生日の朝を迎えていた。


 いつもの日課である、鑑定を開き、画面をあちこちに向けていた俺は、ふと、あることに気付いた。鑑定のデータが目次のようになっている場所があったのだが、その最後尾の場所で点滅している項目を見つけた。ステータスでは無く、選択可能項目となっていた。

「こ、これは……」

 鑑定のレベルが上がったため、鑑定としての項目が増えるようだった。

 ドキドキしながら、その文字に触れてみると、リストが一覧で表示された。


「おぉう、有る。有るぞ有るぞ。」

 そこには求めていたものが数多く提示されていた。今回増やせるのは三つ。一つはステータスで決まりなのだが、残りの二つは悩むなぁ。なんといっても、レベルが上がる要因が分からない。ずっと上がらないのか、それとも年齢で上がるのか一切が不明だからだ。


 マップか、偽装か、レシピ集①か、問題用語辞典か、魔物辞典か、かな…。

 …う~ん。

 ……………ん? 何だ、このサブ画面というのは?

 選択可能項目では無い。鑑定の操作画面に小さなタブレットの画面が付いてる。


 人差し指でくりくりと動かしていたら、鑑定の画面からはみ出した。

 慌てて、鑑定の画面を消したのだが、サブ画面は視界の中に浮きっぱなし。

 とりあえず触ってみる。PCの窓のように角に-とか□とか×が有った。そのサブ画面の中に表示されていたのは、現在俺が層庫の中に入れっぱなしになっているもののリスト。画面に触れて退かそうと思ったら、画面がフイッと横にずれた。試してみると、二回ずれた。リストだけはデフォでホ-ム画面らしい。

 さんざん悩んでいるうちに扉がノックされた。

「セトラ様、朝食の用意が出来ておりますよ。御館様もお揃いですよ」

 アトリの声に思考が中断した。今日は大仕事だったなと、ため息をついた。



 なぜ、あんな夢を見たのかは知るよしも無いが、疲れが溜まっていたせいかもしれないな。

「外貨が稼げる!」発言をした親父のせいでブラック企業とは縁のなかった前世が羨ましく思えた一年半だった。


 一人の石工が一つの石に細工を完了するのに日に二個が限界なのに、俺は相転移の魔法で魔力量次第で加工が進む。直進の石は石工が担当し、俺は設置する部屋の間取りに合わせた曲りや十字の立体交差の細工を担当した。

 石の強度は石工が施すよりも、数倍安定していたからだ。


 魔法の流れを感知する母ランジェには、監視の仕事が任された。


 俺が転移を発動し、石の加工から逃げるたびにあっさりと行き先を看破し、連れ戻される日々でもあった。石の加工と逃亡に転移を使用し、魔力が無くなったら吸収によるドーピング。未だ俺が開く鑑定には、ステータスが写らず、自分自身の魔力がどのレベルのものなのか分からないままだった。昨日までは……な。


 だが、魔法を使用して転移することだけでは直ぐに見つけられてしまうため、這い這いのスピードはより早くなり、伝い歩きが出来るようになると当然のようにその移動距離を増していった。そう、俺は転移の力に溺れること無く俊敏に動けるように、そして母の魔力探査を潜り抜けられるように体力の増強に努めた。

 その努力は実りつつあった。


 転移が失伝した本当の理由は、こうだった。本来、転移を覚えた人間はその時点で自分の脚による移動をしなくなるらしい。魔力があれば、どこでも行けるとなれば確かにあり得る話だが、俺の場合は母の目を潜り抜けるには自分の足を使っての移動が不可欠。それと同時にメイド&執事候補による俺捕獲用の部隊も結成された。隊長はアトリ。スカートを潜くぐり抜けていた事実過去を未だに根に持っている彼女は、自ら志願したらしい。


 火モグラの群れとの交渉は、俺の部屋の床下にいるコーネツが請け負った。

 彼との十数度に亘る想転移パシスタによって彼らが抱えていた問題の解決を望んだという事。すなわち、安定した子孫の繁栄。冬季に死亡する数が半端でなく、夏の繁殖期に産まれた子供たちが全滅することがしばしば有ったらしい。その運命を変えようと手近に有った樽に潜り込んだら、入っていた酒に酔いつぶれたと……。極上の味だったらしい。

 ひと樽飲み尽くすってどうなんよ?


「………、俺のいた領地で良かったなぁ、じゃないと今頃は石の中じゃ無くて墓石いしの下だったなぁ?」

 呆れたよ、全く。


 そして、コーネツの連絡手段は石の中に居ても使えるらしく、前世で俺たちの曾祖父の時代に使われていたモールス信号。ツー・トン・ツー・ツーという短音と長音の組み合わせた信号。ファックスも電卓も同じ二進数のオンオフの繰り返しで機能している。


 彼らは本来土の中での生活なため、土の中の響きで語り合う……らしい。それによると、彼の一族は彼に従うと言ってきた……らしい。この時点で、領内の全戸が床暖房付きの住宅へと変更可能になった。火モグラたちの集会場兼繁殖地は共同浴場の下。共同浴場は基本二組の夫婦が担当するが、エサとなるコインは別に与えられるため火モグラたちの集会場と化しても宴会場には成り得ないのである。


 俺の部屋と親父たちの部屋は筒抜けにするといろいろとヤバイため、直結してはいない。

 既にコーネツの嫁さんがそちらを担当している。冬の間はそれぞれ決められた部屋の巡回をし、繁殖期は共同浴場の熱源をメインで担当し、エサはそれぞれの部屋で摂ることと話していた。想転移パシスタと鑑定を使っての会話のため、『……らしい』と、どうしても付いてしまう。


 害獣が益獣になり、床暖房の熱源、共同浴場の熱源、領地外へのシステム受注生産(外貨獲得)、エサにするための地中型魔物ワームの討伐(これは、冒険者ギルドに発注)し、エサへの加工は、領内の小さな子供たちの仕事になり、小遣い稼ぎどころか家の収入を手助けする者も出る始末。一石二鳥どころか、一石五,六鳥もの得を稼ぎ出したのは俺が発端だが、一番苦労しているのも俺だ。


 スクーワトルア王宮でも発注してきたくらいだから、その外貨の獲得は莫大な金額として、積み上がっていた。もっとも、王室からの発注分は王室御用達の原価設定で破格の価格で納入した。


 ほぼ、俺だけで工事した。今までと違い、一部屋ずつ締め切って石を加工転移し、直ぐに層庫行き。一度に層庫に入れられれば楽なのだが、今のところはそこまで出来ない。魔力量なのか、レベルなのか、単に不器用なだけか?


「スクーワトルア王国の一員として当たり前のことをしたまでのこと。我が息子のお披露目にちょうど良かったというものの、第二王子トレノ様のご子息ヒリュキ様には過分なお褒めの言葉をいただき、感無量でございます。」

 そう現在の王コロナの前にひざまずき、口上を述べる我が父に意外な一面を見た。

 もっとも、あまり敬語が上手くないのだが……。


 現在のスクーワトルア王家には、第一王子レビンと妻アクアの家族と第二王子トレノと妻セリカの家族、第三王子ビスタと妻カレンの家族が居住し、各方面を担当していた。

 第一王子は次期王としての帝王学などを修めながら宰相とともに王の補佐を担当。宰相と意見が割れたときには、現段階では王子が手を引くことになっている。王女が二人。


 第二王子は経済学を修めており、他国および自国の経済の分析を担当。今回の騒動はこの人の裁量で手を打った。一辺境領主では荷が大きすぎたからな……。

 こちらは王子が一人と出産前のため不明が一人。

 王子の名はヒリュキ、どっかで聞いた名前だな。今年というか同じ日に二歳になった。


 第三王子は軍に所属している。魔法部隊の名誉参謀を拝命している。こちらは王子が一人。同じ日に一歳の誕生日を迎えた。ユージュという名だ。こちらも聞き覚えの有りまくる名前だった。


 朝に流した涙を返して欲しいと切に願ったよ、お前ら。




 ヒリュキもユージュも半信半疑だったようだ。

『また、お前ら一緒か……。』

 想転移で思考を飛ばすとキョロキョロしていた。

『セトラ……、あ?……ユージュか?』

『先生……、え?……親父?』


 ほうけていた時間はそう長くは無かったはずだが、兵士が一人駆け込んでくることには、そこに居た者の全てが気が付いていなかった。


「大変です。城の北西に有る鎮守の森から魔物が……?」

 突如、彼の胸を投擲された石が貫いた。


「くっくっくっ、あなたたちに対処する時間は与えませんよ」

 黒い羽を持つ人型の魔物……、いや魔人が浮かんでいた。

「わたしは、第一の使徒、アッイガイ」


 俺はサブ画面を開き、マップを表示させ、現状を確認する。

 王城の外では、魔物と兵たちが入り乱れて戦いを始めていた。


 俺たちでは、体力が心許ないが、それでも出来ることは多い。

 ヒリュキとユージュともアイコンタクトをして初の戦場に出るとしようか?



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 俺の初ステータスはこれだ。


【名】エト・セトラ・エドッコォ

【職業/サブ】魔導士Lv31/気象魔法士Lv99

       魔導士は魔法士の上級職

【HP】999

【MP】6,087,950

【STR】100

【VIT】099

【DEX】082

【AGI】120

【INT】352

【LUK】200

【属性】

火258/水258/土258/風258/光258/空間258/闇258/無258

【スキル2/10】

 身体強化51/ダッシュ49

【控えスキル0/10】

【装備】

革の靴/領主の子供の服(上下)/短剣/まきびし/指弾

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