第11話 子供は暴風《かぜ》の子、嵐の子3-冒険王

「ビスタさま、階下したへ行って、傷ついた人たちに元気を分けてあげたいんです。一緒に行ってください。魔法兵団のお力を貸して戴きたいのです!」

 第三王子ビスタに向かって、ハキハキした口調でヒリュキが話しかけている。

 無駄に【交渉術コミネート】というスキルのレベルが高いために、ある意味危険な場所へ向かうのだが、それを微塵も感じさせないように話し説得している。


 第二王子トレノ、つまりヒリュキの父親は、この時の交渉の見事さに感動し経済の活性化を狙い、この年の末に自分が治めている領地内のある一軒の店の相談役に就任させることになる。惠知児エチゴ屋というちりめんじゃこの卸問屋を任された彼は、後に世直し漫遊記の主人公になる………かも知れない(^。^)/


「とうさまぁ、【治癒リカバー】が使える人が必要なんだよ、お願いします。」

 ユージュがヒリュキの後押しをする。前世での親子だから、交渉に対する阿吽あうんの呼吸は見事の一言に尽きる。


「分かった、分かった。コロナ王、魔法兵団、城内で根治術治療を開始します。」

「む? ……うむ。しっかり根治して参れ。頼んだぞ!」

 ビスタ王子の巧みな言葉に隠された意味をコロナ王も気付いた。その上で許可を出す。


「では、行こうか? ヒリュキ、ユージュ……、おいユージュ?」

 第三王子ビスタは、現王の了承を得て、ヒリュキ、ユージュを伴って動こうとするが、ユージュは動かない。不審に思ったビスタにプの方二人が援護に入る。


「ビスタ叔父様、ユージュ様には何か考えがおありの様子。代わりにわたくしたちがお手伝いしますわ」

「……します。」

「え? いいのか、レビ兄。「かまわないよ」、……そうか。分かった、でもガードは付けるよ。」

 頑固なところが似ている。若干苦笑しながらビスタはヒリュキについて歩き出す。

 話から推測すると、どうやらよほど面倒な相手がいるようだな。そう思いながら配下の者たちに呼び出しコールを掛けた。


「ああ、頼んだ。……それで、ユージュはどうしたいんだい?」

 レビン王子は動かないユージュの姿にある意味、その視線の先にいる人物に目をやって心中で舌を巻いていたらしい。その視線の先に立っていたのは俺だ。


 自分の中で何かと葛藤しながらも、はっきりとその望みを告げた。

「ボクは……あの方の全てを、強さも魔法も戦い方も見ていたいのです。」

 俺は、苦笑していた。

 ユージュのその言い方は、後で論議を呼ぶだろうという事も、そして俺自身についても詮索は免れないだろうという事も、覚悟は決めなくちゃいけない、とも。

 あの時、あの方が話していた『……君には自覚が必要になる。いずれ、判るよ……、では、またね(笑)』、その時期というがこんなに早いとは思わなかったけど、ね。


「俺も同感だな、ユージュ。コロナ王、幼き勇者への助力、お許しいただけますか?」

 驚くべき事に先ほどの殺気を見事に払拭してレビン王子がユージュの隣に立つ。


「許可しよう、だが、そのような姿を見ているとお前もまだまだ無邪気な子供のままだな。二十歳はたちをとうに超えておるというのに……、目眩めまいがするぞ。」

 王の呆れた口調は、レビン王子を苦笑させた。だが、その王も見せる表情はイタズラを成功させた子供のようにイイ笑顔をしていた。


「【氷の柱アイス・ピラー】!」

「あ、あれは……! 本来の形はこれなんですか?」

「いや……本来、あれは地中で形成されるものだ。地中の水分をかてに地層に食いつきながら生成されていく、様々な形で。だから、地上での形は俺も初めて見た。」

 折角の冷気を利用しない手は無い。そして、いつも自分のイメージだけで地中に撃ち込んでいたソレの姿は、俺も初めて見た。もっとも俺の後ろでは、地層よりもユージュの食いつきの方が凄かったのだが。


「風よ。雨よ。来たれ。」

「え? うそ。こんな早く…発動できるの…?」

 俺は空に向かって小さく呟くと、一天いってんにわかにき曇り、空が暗くなる。俺のイメージ通りの雨が降ってくる。その気象変更の速度はユージュの理解を超えていたらしい。

 今回のオーダーは、滝のような土砂降りの雨。

 上空から落ちる滝のような雨は、冷え切った空間に落ちては瞬時に凍りつき、そのままこぶし大の球状の氷へと変化して、大地へと猛烈な速度で降り落ちる。

 その際に風によって横回転を受けたソレは前世での銃弾のような凶悪な威力を持って、地表面にある水分と絶対零度の余剰冷気との接触により凍結を始めていた地面を穿つような勢いで降り注いだ。人工的な?ひょうによる空爆だ。


「うわっ、雹が……。」「なんて、破壊力……。」などと俺の後ろで呻いていた。

 空を飛んでいた飛竜などの魔物は既に先ほどのダウンバーストに因って、既に地上に墜ちている。現在、地上でうごめいているのは四つ足や二本足などのいわゆるゴブリン、オーク、コボルトや角やら牙やらが大きい、熊や狼や猪の魔物たち。それらを打ちのめしていく。

 小麦畑が健在なら滅茶苦茶怒られただろう事は言うまでも無い。しないけど。

 だけど、今は魔物だけしか居ないから出来る荒技で、どうやって兵たちと分断しようか迷っていたからな。『ディノ』とかいうヤツの策が 特攻ぶっこみ型攻城兵器で良かったよ。敵と味方を分別してくれた。ちなみにその『ディノ』とかいうヤツは攻城部隊の最後尾から追い掛けていた。督戦か?


 最後方より速度を上げながら走ってくる走竜の大きさは、頭から尻尾まで差し渡し十四,五メル、横幅は五,六メル、有るほどの巨大なもの。その背中に固定されていたのは丸太などでは無く何かの金属で出来たゴーレムが破城鎚パイルバンカーとして変化へんげしたものらしい。


「う……、あれはもしやゴーレムか?」

 後ろでレビン王子の息をのむ気配がする。


「ゴーレム……? こ、これは!」

 思わず鑑定をゴ-レムに掛ける。

 急所は、魔石に接続された魔回路か、貫通力のある武器が必要かな?


魔銀ミスリル……だと、これだけ巨大なもの全てが?」

「「なにっ、ミスリル? 全部がそうなのか?」」

「………へっ?」

 俺は、一匹目のを鑑定した事によって判明した含有量だったが、後ろにいる王と王子は全ての走竜がそうなのかと誤解した。だが、改めて、鑑定を掛けると全ての走竜の背中にミスリル鉱山こうざん……が乗っていた。あれだけのミスリルは一つだけでも市場価値が暴落する可能性を持つが、逆に魔道具の生産には欠かせないほどの純度を持つものだった。


 城門だけでなく、城壁をも飲み込むような攻撃のようだ。

 一隊三匹が三角隊形を保ったまま、三隊九匹で走り来るのを見て、仕掛けを発動した。

 降り落ちていた雹の弾丸に俺の意思を伝える。


変化へんげせよ。」

 俺の意思を受け、それらは瞬時に姿を変える。

 まきびしの形は、金平糖のツノが鋭角なスパイクに変わった形といえる。

 凍結した地面と融合していた氷のまきびしは硬度を増し、凶悪な堅さでもって走竜の足の裏に食い込んだ。ソレは走竜とミスリルの重量が、尻尾があることでバランスによる軽減があるにしても、支えて走っていた四本のゴツい足の裏を貫いた。

 高速からの強制的なフルブレーキは、走竜のごつい足をもズタズタに引き裂いた。


「グゥガアアアアアア……。」

 悲痛な悲鳴を上げて走竜の足が引き裂かれる。引き裂きつつも血は流れず、極低温による永遠の眠りがあちこちで始まっていた。降り来る雹から逃れ、走竜の走る道から避けていた魔物たちは思いもしない角度から走竜たちに突っ込まれ巻き添えを食らっていた。

 いびつな形の死の氷像があちこちに出来ていた。


 最後尾を走っていた『ディノ』も例外では無く、その巨体をうずくまらせている。だが、強靱な体と精神を持っていた『ディノ』は叫び声とも雄叫びともいえる声を発した。さすが、ディノニクス。二十五メルクラスの二足歩行型肉食恐竜種だ。

「グゥガッ、ガァァァァオオオオ!」

 その声を受けて、最前線では事態が変化した。


 そう、ゴーレムが伸ばしていた体を折り畳み、七メルの人型となって走竜から降りて歩き出した。城壁から魔法による攻撃が始まるが、ミスリルという性質の体には何の変化も無い。まだ、頭部に集中させた方がいいんじゃ無いか? 貫通するかもしれん。


 目指しているのは城門、そして、城壁。


「なにっ、ゴーレムが?」

 王様が驚いていた。でも、想定内だよ。

 さぁ、最後の罠が開くよ。

「……………、凄い。これが先生………なんだ。」

「……、これが魔法?」

 悪い。お前らのこと、忘れていたわ。ユージュと王子様の呆けた声が聞こえる。

 普通の魔法使いは、こんな事出来ねぇよ。可能性があるとすれば、ユージュとコヨミくらいか。


 そんなこんなな状況でもゴーレムは近づいてくる。城門の前に陣取っている風の渦を避けて城壁に一列に並んだゴーレムは腕を振り上げる。城内でも恐怖の声が上がる。城壁に設置されている隙間、銃眼と呼ばれるスリットから覗いていたらしい。逃げ惑う声やら音やらが聞こえてくる。

 ゴーレムが腕を振り下ろす瞬間。


 異変が起きた。


 城壁に沿って、ゴーレムのいた場所に穴が開いていた。

「あ、あれ? ゴーレムは?」

 その場に居た者たち全てが抱いた感想だった。


 九個の巨大な落とし穴。


 ゴーレムの体躯よりも深く、バンザイをした形でまっていた。何とか、逃げだそうとするも身動き出来ず、ワタワタしていた。


 相転移イコスタで造り、装転移パワスタを施した穴の中、そこは地獄層庫の層転移クラスタに繋がっているよ、ゴーレム君たち? 


 既に鑑定で、ゴーレム君たちの急所である魔回路は確認済みである。

 しかし、鑑定最強だな。

 いや、転移か? 前世でも使っていた気象魔法か? ……ま、いいか。


「さぁ、とどめだ。」


双転移ダビスタ発動、五連。風よ、いざなえ。」


 地上より五千mの上空に空気の摩擦熱に耐えられる形状(つまりは長いタイプの銃弾?)にした石畳の石をゴーレムに、同じ形の雹を『ディノ』に向けて落下させた。


 風で覆われた管の中を石は重力加速度を受け回転しながら、九体の魔物と一体の魔人?に向かっていく。

 そして、直撃した。

 『ディノ』は脳天に雹が直撃し、その巨体ごと氷結した。


 穴の中でワタワタしていたゴーレムは魔回路を貫かれ、活動を停止した。


 着弾の衝撃でゴーレムはそのまま穴の中に崩れ落ち、ついでに穴も崩れ落ちた。

 すぐ脇に積み上がっていた土砂が強烈な振動に耐えきれなかっただけだが。

「!?」

 ソレを見ていた王様も王子様も崩れ落ちた。

「何メル掘ればいいんじゃ?」

「さ、さぁ………魔法兵団の工兵、土魔法師に要請を掛けてみましょう…。」


 貴重なミスリル鉱山は既に俺の層庫に収納済みですが、なにか?

 でも言わないよ、出すかどうかは今後の関係次第でしょう?


「手も出せずに埋められてしまうなんて、先生にしては何たる不手際……、いや待て…。」

 ユージュは何か気付いているみたいだけど……。ここは誤魔化すだけだな。

「ユージュ、門の前の風の渦は開放していいぞ。」

「あ、はい。ありがとう風よ、散開してください。」

 その言葉に従って渦はほどけていった。


「お、お前何者だ?」

 【氷の柱アイス・ピラー】にはりつけられていた『アッイガイ』は、しぶとく生き延びていた。

 あれだけの雹が降り来る中で……、運のいいヤツだな。いや魔人なんだけど。



「俺は、エト・セトラ・エドッコォ、冒険王になる男だ。」





 ステータスがいろいろと更新されてました。

 でも、魔法の勉強がまだなので……、イマイチ実感がありません。

 魔人と自称していた二足歩行型恐竜でも竜殺しになれるんだ?


【名】エト・セトラ・エドッコォ

【職業/サブ】魔導士Lv33/気象魔法士LvMaX

       魔導士は魔法士の上級職

【称号】竜殺しnew

【HP】1500

【MP】6,987,950

【STR】190

【VIT】139

【DEX】182

【AGI】220

【INT】352

【LUK】300

【属性】

火258/水318/土318/風318/光258/空間318/闇258/無258

【スキル3/10】

 身体強化55/ダッシュ49/鷹の目15new

【控えスキル0/10】

【装備】

革の靴/領主の子供の服(上下)/短剣/まきびし/指弾

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