第3話 転生と奇跡の雨
何が原因でこうなったのだろう。目が覚めたとき、俺の体は動けなかった。
力を込めても立ち上がれず、寝返りも打てない状態で、首も回せない。
視界に入るものは、やたらと大きく感じる。ベッドは木らしい物で四方を囲われているようだった。
そうこうするうちに腹が減った。
「母さん、飯!」と、言ったはずが、言葉にならず、出たのは
「うぁぁぁぁぁ~あ」
(は……?)
なぜに赤ん坊言葉?
白い思考状態が続いて、扉が開く音に気付けなかった。
「おお、起きたね、よしよし、ミルクをあげるから、待っててね。」
抱き上げられ(超力持ち?)、ぷにっとした感触につい(おぉ!)っとなりながら、ようやく確認できたのは、赤毛の三つ編み少女。初等科三年生くらい?
誰だ、年端もいかない少女に手を出したやつは!
そう思っていたら、俺を抱いたまま隣の部屋へ移動した。
「ランジェ奥様、セトラさまが…。」
名前は、前と一緒かよ!
いや、いいわ。腹減ったから、なんか飯くれ…。
「ああ起きたのね、冷蔵保存室にミルクがあるから、出してきて頂戴。」
「はい、今持ってきます。」
俺をその奥様に抱き上げてもらうと、その少女は、部屋を出て行くとリズミカルな靴音で遠ざかっていく。その間に部屋にあった鏡に映った自分の姿を確認しておく。
ということは、父親は、銀髪か?
どうでもいいが、さっきの少女よりはマシだが、それでも犯罪……じゃね?
ほどなくして、さっきの少女が戻ってきた。ほ乳瓶を抱えて。きちんと吸い口がついてる。
「は~い、ミルクですよ。」
ちょっと、間延びした口調ながらも俺の口先にほ乳瓶をあてがう。
「………、
ミルクというより粉ミルクという感じ。
「う゛ぁぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
濃すぎて飲み込めず吐き出した。少女の顔に向かって…。…お約束だよね?
「セトラ、お行儀が悪いですよ」
奥様と呼ばれていた美少女が俺をたしなめる。…しかし、腹は減っているのだが、こりゃ飲めねぇ。
「ううっ…。」
少女は呻いている、どうやら目つぶしになったようだ。着ていた、エプロンで顔をぬぐうと、睨みつけてくる。
え、俺のせいかよ?
「アトリ、もう少し薄めてきなさい。…とっておきの水を使っていいわ。」
仕方なしにそう言う奥様の言葉に、アトリという少女が聞き返す。
「え、でもあれは、最後の一樽ですよ。あと何日持つのか、こないだも旦那様とお話になっていたではありませんか?」
「でも、この国では、数年前の侵略戦争が終わってからというもの、水は他国からの輸入キャラバンに頼らなければ満足に食事すら出来ないのですもの。少し高いですけど、隣の国ガルバドスンからの輸入キャラバンを待ちましょう。」
あ、水がない……? どういうこった? 水気なら、十分あるぞ?
「元々、豊潤にあった水資源が蒸発して涸かれていき、雨も、いいえ雨という言葉さえ、忘れかけているような国なんですもの。少々の不便は、仕方ないわ。火の国ザンゾルの侵略魔法のせいでこの辺の国は皆同じ状況。大本の火の国ザンゾルは滅んでしまって、誰にも文句の言える場所が無いなんて。でも、自分たちが起こした魔法くらい制御出来て当たり前…、出来ないなら使わないでほしいものだわ! 冒険者ギルドでの水魔法による給水依頼も不調に終わってしまって、本当にどうしたらいいのかしら?」
え、雨がない? 俺のそばには、彼ら・・雨の気配がするぞ。
しかも、俺が感知したところ、雨のないこの現象は火の精霊の仕業しわざではなく、風の精霊の暴走。 どこか近くに砂漠地帯でもあるのだろうか?
だとしたらまだ、やりようはある。
「せっかく、旦那様がため池を領民のために多数作ってくださったのに、この国にも、冒険者ギルドにも、水の魔術師が居ないから空堀のまま。領民の方々にも苦労を掛けてしまって……。」
水の魔術師がいない? ここは魔法があるのか? それは、使ってみたいな非常に。
だが、今必要なのは、雨。
ため池だけなら水魔法でも良いが、領地全土を潤すなら、雨が一番良い答えだ。 それも、この枯れた大地を潤すほどの少々大降りの雨か。
使えるかな? 今の俺が……赤ん坊で気象魔法を?。
彼らの気配はする。すぐ、そばにいる。
ふふふふふふふふふふ、やってやる。やってやるさ! 頼むぞ、みんな!
「
この体で、この世界で、この国で、使えるかは分からなかったが気象魔法士の名にかけて!
いや、そこまでの思いは無かったかも。だが、その俺の言葉で、俺のそばに居る彼ら・・の気配がすぐに変わった。
最初は空が暗くなり始めた。雲が湧いたようだ。日差しが遮られて屋敷というかこの建物の周りからどよめきが上がる。温度差によって風が起きる。そして……。
「おい、空が……。」
最初の一粒が地上に落ちるまでそう掛からず、大地に水滴が降り落ちてくる。
その粒は小さかったものがどんどん大粒の雨になってくる。
「奇跡だ…。」
「雨……、これが雨?」
「雨だぁぁぁぁぁぁ!」
「いやっほぉぉぉぉ!」
歓喜の声が至るところで弾ける。
その声に驚いたのはランジェ奥様とアトリという少女。唖然としている。
まぁ、無理も無い。隣の国から輸入している水が空から、降ってくること自体が、奇跡みたいなものだからな。金が降ってくるに等しい。
外では、みんなが鍋釜などで、夢中になって雨水を受け止めている。まぁ、煮沸して使ってね。
「まさか、セトラ。あなた……。」
奥様と呼ばれた美少女が周りを見回した後、俺を見てくる。魔力の流れみたいなものでも感じたか?
「う゛ぁぶ?」
あら、気づかれたか? まぁ、いいや。一日降ったら止むように追加で頼んで、寝落ちすることにしよう。
では、お休みなさい。
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