第4話 驚きの、雷鳴と特技
夢を見た。夢の中で「ああ、俺は今、夢を見ている」と、判るほどの夢だった。
地球、ニッポン州時間一八時三〇分。
ペルセウス座方向より流星雨あり。
大小一〇〇余りの流星が大気圏内に落下。 大気の摩擦により九〇%以上は消滅した。
そうマスコミは報道した。
だが、そうではない。
大宇宙の深淵より一つの意志と、それの持つちからを込められた何かが、残りの一〇%未満の中に確かに存在していた。
『選んだのか?』
『わたしの願いは叶うよ』
もう何千何億年もの間、彼の願いとともに届けられていた遙かな想い。
小さな小さな人類の意識の階梯を上げるための大きな遺産。
次のちからを次の意識に伝える、何回も何回も失敗したことを『どうしても』とずっと願っていたのだから。
そのとき、やっと、地球以外に居住の出来る空間を一つ宇宙に築いていた人類は、その場所が自分たち人類の巣立ちのために自分たちで用意したものだと認識せざるを得なくなった。
風が吠いている、大地に向かって、天に向かって。
涸れた声で、風が…吠いている。
今はもう、遙か過去の出来事になった。
大地に生命の息吹を身近に感じることの出来た日々は、たった四つの隕石の落下によって、消えてしまった。赤茶けた大地、干上がった河川、暗く寒い大気、マスク無しでは生きられない世界になってしまった。
母なる地球の信じられないくらいに変わってしまった世界は、奢り高ぶり、エネルギー改革をしない人類によって引き起こされたのである。
そう、原子力発電所に、隕石が落下したのである。
信じられない確率、隕石の質量と成分、落下の角度、そして地殻への衝撃。
すべてが最悪のものだった…。
大気中で燃え尽きるはずの小惑星の成分は、鉄を超えるある特殊な鋼ハガネ。
燃え尽きるどころか、硬度を増して落下した、その衝撃を後に計算した宇宙開発コロニーの科学者はその膨大なエネルギーに絶句した、という。
その速度、質量、そして、人類の作ったものより正確なポイントへの攻撃?
炉心の中にある燃料棒への直接攻撃、誤差は一〇〇億分の一でしかなかった。
大地に根差した文明社会は崩壊した。
一つだけなら、ほかの地区は助かったかもしれない。
しかし、アメリカ州、ニッポン州、中華州、プロシア州のそれぞれの発電施設に落下。
どちらにせよ、地上の文明は、その幕を閉じた。
これでもう、地球を脅かすものもいなくなった。
運良く、事前に脱出した人々によって、コロニー評議会が設立され、人類の目は、外宇宙へと向けられていく。数世紀後に人類は、またその勢力の版図を広げていくのである。
「星が吠ないている…」
暗い雲の下、赤茶けた大地に一人突如現れ佇む者がいた。
「人は大地を失ったというのか…」
つばひろの先の尖とがった帽子を被り、黒く裾の長い服、黄金虫のペンダントをしている。
まるで、魔法使いのようななりだ。
「人々の意識にも、この星のことは、もはやのぼらない様だな…。」
嘆息すると、何やら地面に描き始めた。
二重の同心円、正三角形の上下に組み合わさったような形、隙間を埋めるように何やら文字を描いていく。
「アルカニ、エーベディダルィア…、ラーティスサラーゥオン!」
ひとつの言葉を発すると、その同心円から風が立ち上り始めた。どんどん大きく、どんどん回転を増して、巨大な竜巻になっていく。
見よ!
赤茶けた大地が、その時間を巻き戻していく。
涸れてしまった河、海。
そして、緑の青々とした大地。
動物たちも戻っていく。
大地に…、海に…、空に…。
かつて、地球と呼ばれし星は、見事に復活を遂げた。
だが、巨大な竜巻は収まりを見せず、その勢力をその星、地球の周りにまで伸ばしていた。
大気を脅かすガスやちり、宇宙空間のダストまでを呑み込み、そのまま、居ついた。
まるで、結界のようだ。
『ジルハマンよ、ありがとう』
地鳴りのような声が響き渡る。
「ガイアよ、しばらく眠りにつくが良い」
ジルハマンと呼ばれた男は、ガイア、いや、地球に向けて、諭した。
「ガイアよ、結界を開けられる鍵を渡しておく。あなたの眠りが満ちたら、飛ばすが良い」
ジルハマンの手から、光が飛び、消えた。
『わかった。私は眠ることにしよう』
ジルハマンは頷き、そして、彼も消えた。
そして、地球は眠りにつき、人々の意識からも消えた。
本来、魔法の持つ規則性は科学の基本構造になっている。
音の持つ魔法力に気付き、それと合致させた初めての科学が魔法なのである。
だからこそ、科学の合理性と非合理性を併せ持ちながらも、科学を凌駕するパワーを発揮する。特殊な場を備え持つ者に、授けられた特殊な技術技法のようなものといえる。
その魔法言語の韻を踏むのが人の喉かコンピュータの人工声帯かの違いだけである。
しかし、生じる結果においては術者本人のイメージ、方向性、意志と恣意が大きく関わってくる。規則性と同時にそれから逸脱したパワーをも引き出せるのだ。
無論、コンピュータにイメージする力、意思や恣意という力も無い。
となれば、方向性が定まらず、魔法の為す現象の何十分の一の結果になったとしても仕方の無いことである。場を整える力の大きさが足りないものへの補助となるのみであろう。
自然と相対するのが巫女シャーマンならば、すべてのものの理ことわりを覆すことが出来るのも、また、魔法だけなのかも知れない。
魔法は夢のパワー、夢が本来持っているもののパワーなのだ。
私たち(?)人類が夜に寝た後に見る夢、見たことがあれば、その非常識さは良く判ることだろう。
それだけの力を私たちは秘めていることにも気付けるはずだ。
特殊な場と私は言った。
それは、誰にでもある場なのだと思う。
それに気付くかどうか、それだけが魔法を使うことの出来る資格なのだ…、と私ジルハマンが思う。
「やぁ、君だけかい。これを見ているのは。ん……、なるほど、雷神の…」
不意に声を掛けてきた存在は今まで俺が映像を見ていることに気が付いていたようだ。
その上で俺の中の何かに反応した。
「まぁ、見ていたのなら解るだろうが、君の居た世界はもう無い。同じ世界に居た親しい人もそうでない人も、もういない。間違った力が暴走したせいだね。あの世界は復活し、新たな生命体が棲み着くだろう。それがどういう末路をたどるのかは私にも解らないよ。まあ、あの世界は私が今後も見ていかなければならないが、君の居る世界にはきちんと神々が居る。助力は得られるだろう……今までもそうだったように。そして、君には自覚が必要になる。いずれ、判るよ……、では、またね(笑)」
俺が転生した理由は、夢に出てきたジルハマンという人みたいの(?)が話してくれた。
映像で見せてくれたように、地球人類は、少数の人間たちを遺して、全滅したらしいということ。
地球は復活したらしいのだが、そこに至るための鍵は見つかっていないとのこと。
「そう……いずれ、扉は開かれるよ。君たち人類の手に鍵がある限りはね。それがいつかは分からないけど…、開かれたときには、目に見えるような変化が起こるだろうね。ハハハ…」
姿が見えなくなった彼は、最後にそう言って、俺の夢の中へ歩いて消えていった。
そうか、不肖の弟子の『ボクちゃん』も、親友だったあいつも、お袋たちも、なのか…。
一つの世界の滅亡は、ほかの世界が変容していく鍵になったりするのだな…。
まだ、俺の手は小さいままだから、世界が変わろうとしているのを押し止めることは出来ない。
でも、この世界なら……。
魔法が実際に使えるようになるまでに、今の俺には必要なことがあることに気づいた。
この世界の成り立ちや、元の世界からの転移者の有無、それに魔法の詠唱だ。
今までの俺のやり方は、指を立ててクルクルか、手のひらを広げて翳かざす仕草で何とかなっていたのだから。気象魔法に関してはそれで良いのは実証済みなのだが、普通の魔法、なんか変な言い回しだけど、それは初めてだからな。
でも、近くに感じられるそれ。
水や火や土、風に属する者たちの息吹。
なんというか、懐かしい思いをぶつけてくるように感じられた。そして、発動する魔法は、今までの気象魔法とたいして変わらない。『信じることが力になる』ということだ。
ということで、目覚めてみると俺が寝ていた周りに祭壇が出来ていた。一瞬、訳が分からなくて葬儀場に来ていたのかと思ってしまった。
「んうぁ………………あ゛…」
あれぇ、なんだこりゃ。
目の前に一人の若者が居る。こちらを見てにこやかに笑顔になっているから、知り合いなのは判った。問題は、その顔の造作にある。妙に見慣れた顔に心が揺らぐ。髪は銀色。
俺のもう一人の遺伝子の提供者だと感じる。いや、顔を見ただけで解ったよ、親父なんだって。
そこに居たのは、江戸紫。
言葉を話せない赤ん坊であることに、これだけ感謝することになろうとは……。
「おぉ、目覚めたか、セトラ。これは領民からの誕生の祝いの品だ。おまえは、スクー・ワトルア国東部辺境の領主エト・ムーラサキ・エドッコォの長子として誕生したのだ!」
な、なんとか吹き出さずに済んだ。
なんだよ、それ。家名か? てことは、俺は、エト・セトラ・エドッコォか。
江戸世虎、
ツッコミを入れようとして、右手を振ったら視界の端にあった何かをかすめたらしく、視界一杯に無地のレースカーテンみたいなスクリーンが出た。左見ても右見ても視界から外れない。なんじゃこりゃ。それを目の前からどけようと、両手を振り回していたら、いきなり親父に抱き上げられた。自分以外の存在を認知したようでスクリーンが閉じた。
「抱くことは久しいが。赤子というのはこんなにもよく動くものだったか? ランジェ、よく頑張っていい息子に育てようぞ。ははははっ。領地の溜め池もほとんど回復したしな、今日は本当にいい日だ!」
「はい、頑張りますわ。ね、セトラ。」
親父の言葉に唖然としつつ、母親に振り返る。ここって、貴族なんじゃなかったのか?
こんなに気さくでいいのか? もっとも、しかつめらしいのは苦手だが……。
何となく、気に食わなくて短い腕を親父の顔に向かって振り回す。
何度か腕を振っていると、たまたま親父のアゴに左手がヒットした。その時だった。非常に高い濃度の魔力が体に流れ込んできた。
おおう、これは……。まさか、使えるのか、前世で使っていた特技。
「う゛う゛う゛ーーー……、う?」
前世では、魔力というもの自体が世界に少なかったから、供給元を絶たれると、その気象の改変は出来ないで終わってしまうものだった。だからか、いつの頃からか自然と使うようになっていた、モノだった。
それは、吸引の左、放出の右。
俺が受けた様々なショックで、屋敷の上空は、晴れ間が陰り、雷鳴が閃く状態になっていた。そう、悪魔の研究所並みにおどろおどろしい様子で。
「
その頃、俺は、気絶していた。濃い魔力に酔ったまま。
もちろん、雷鳴は引っ切り無しだったそうな。
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