ラスト・ミッション。

「あの……映像を作って頂く場合の費用とかは……。私あまりお金がなくて……。ネットで調べたら結構かかるって見たので……」



熊井さんが満を持して切出す。ここが大事なポイントだ。

この回答次第で様々なことが決まる。

俺と熊井さんは固唾をのんで三浦さんの回答を待つ。



「お金は結構です!本当に熊井さんの作品に参加させて頂けるだけでうれしいです!それに私の勉強という意味もありますのでお金は結構です!」



お金はいらない。三浦さんにとってそれはなんのメリットがあるのだろうか。映像の勉強をしているというのならばその勉強をするというのは納得できる。

しかしそれならば自分で勝手に作ってみるというのはダメなのだろうか。俺が考えすぎなのだろうか。

一緒に作るというのが腑に落ちない。昨今二次創作という元ネタが有り、それをさらに創作させているものも数多く存在している。

そうではなく一次創作の本人に連絡を取って二人で作ろうというのが俺が腑に落ちていない点だ。



「そうだとしても三浦さんの時間を使うわけですしタダというのもこちらとしては気が引けるというか……」



熊井さんとしても彼女の真意を探ろうとジャブを打つ。



「そうですよね。これは元々お願いしようと思っていたんですが、作った映像に関しての全ての権利は熊井さんにお渡ししようと思ってます。ただ製作者としては私の名前を出させて頂きたいんです」



「えっと……それはどういう意味でしょう?無知でごめんなさい」



「例えばYouTubeに上げた作品が収益化されたとしても私は一切の権利や収益金を求めません。概要欄に映像作成者として私の名前を載せて欲しいんです」



こうなると本当に彼女の目的がわからない。権利を一切放棄する必要もわからない。



「そうすると三浦さんのメリットがわからないんですが……」



熊井さんも俺と同じ疑問を持ったようでさらに三浦さんに聞く。



「私は熊井さんのファンなんです。なので特にメリットがあるかないかとかではなくお手伝いしたいんです」



たぶんこのまま話していても三浦さんは真の目的は話さないだろう。

話さない理由はわからない。しかしここでずっと聞いていても埒が明かないと思う。



「たぶん三浦さんは真の目的は話さなそうですので最後の作戦を実行しましょう」



俺がそう言うと熊井さんは俺の方に目配せをして了解の合図を送った。こういう時熊井さんにしか声が聞こえないのは便利だ。

最後の作戦は三浦さんに付いていって真の目的を確認することだ。



「わかりました。そうしましたら次の曲が出来たらまた三浦さんにご連絡させて頂きたいと思います」



熊井さんが声をかけると三浦さんは嬉しそうに連絡を待っている旨を伝えた。

話している姿を見ている限りは三浦さんは悪い人ではなさそうだ。

決して熊井さんを騙そうとか嵌めてやろうと考えているというわけではないと思う。

しかし本音を話さない理由もわかないとなればやるしかない。

三浦さんには申し訳ないがストーカー幽霊末松出ます!!!


お会計を済ませ熊井さんと三浦さんはカフェの前で挨拶を交わす。



「それでは曲が出来たらご連絡をください。お待ちしています!」



「わかりました。よろしくお願いします」



熊井さんは深々と頭を下げた。そして顔を上げ俺を心配そうに見つめていた。

そんな彼女を心配させまいと俺は右手を突き出して親指を立てグーのポーズをする。



「あとは僕に任せておいてください!いってきます!」



俺はそう言って三浦さんの後を追いかける。

熊井さんと離れるのは久しぶりだ。寂しい気持ちと使命感を持って俺は走った。

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