真の目的。

俺は熊井さんと別れてから三浦さんの後について行った。

彼女はそのまま駅に向かって帰路に就くのではなく新宿の街を散策していた。

百貨店でアクセサリーを眺めたり駅ビルでコーヒーショップに入ったりと普通の女の子のようだった。

普通の女の子がどういうものかということを俺が知っているか知っていないかはいいとして本当に『普通の』女の子だ。


コーヒーショップでフローズン状の流行りドリンクを飲み終えた彼女は駅のホームへと向かう。

JR新宿駅二番線。そこに来た当駅始発の電車に彼女は乗り込む。俺はすかさず後ろについて乗り込んだ。

今までこの路線に乗ったことはないが好きなアニメ映画にこの路線の駅がキープレイスとして出てくるので少し興味があった。

電車は次の駅であるビッグターミナル駅を過ぎ走っていく。

そして大都会を過ぎると大きな川を渡って行った。

彼女は川を越えた先の駅で座っていた席を立ち電車の降り口へ向かう。


そこは駅のロータリーを越えると閑静な住宅街が広がる駅だった。

彼女は迷うことなくスタスタと歩いていく。

自分の家がある場所なのだから迷うわけがないが気持ち早足で進んでいるような感じがした。



「ただいまー」



彼女は鍵を開けて一戸建ての家に入っていった。

ここまできて覚悟が揺らぎ始めてしまう。

これ以上進んだら本当に本当にストーカーだぞ。

まじか!俺!まじか!

でも

何の成果もっ!得られませんでしたっ!!!!

とは熊井さんに言えない。

俺は覚悟を決めて玄関をすり抜ける。



「今日の夜ご飯なにー?」



彼女が話しているのは母親だろうか?

普通に美人な母親だ。

まぁそれはいい。



「今日は餃子よ」



「いいじゃん」



彼女はそう言うと階段を上がり始め、登りきったすぐの部屋へと入っていきドアを閉めた。

俺は彼女の部屋のドアにすり抜け中に入る。

女子の部屋に入るのは人生で二度目だ。

いい匂いがする気がする。

でも熊井さんの家のがいい匂いな気がする。

部屋は小綺麗にまとめられており机の上にはモニター、足元にはデスクトップのパソコンが置かれていた。

彼女は部屋に入るとパソコンの電源を入れズボンを脱ぎ始めた。

熊井さんは俺の目の前でズボンやスカートを脱ぐことはなかったので初めて女子の着替えを見てしまった。

罪悪感と申し訳無さが俺を襲う。

こんな形で女子の着替えを見たくはなかった。

そんなことを考えている間にも彼女はシャツを脱ぎブラジャーを外して部屋着であろうTシャツに着替えていた。

いや!違うよ!見てないよ!!流石に見てないよ!目を背けました!なんで詳しくブラジャー外したのも知ってたんだよ!って思ったでしょ!違うのよ!いや違うはない!下着姿までは見た!それは認める!でもそれ以上は見てない!本当に見てない!



「やった!やった!これで先に進める!」



彼女が独り言を呟いたことで俺はふと正気に戻る。

彼女の方に目を向けるとノートに書き込んでいるのが飛び込んできた。



「あの人はビジュもいい!歌も上手い!絶対有名になる!見つけられたのはラッキー!」



彼女はそう言いながらまだノートに文字を書き込んでいる。

彼女が書き込んでいるノートを拝借させてもらった。

彼女のノートには『プロデューサーになる為に』と書かれていた。

ノートにはぎっしり大手テレビ局の採用情報や募集期間、募集要項が書き込まれている。

さらに自分に足りないところややるべきことなど様々なことを書かれていた。



「周りは国立、私より上の人達ばかり、私は実績を武器に戦う!」



彼女は独り言にしては大きな声で言う。

彼女の真の目的はこれだったのだ。いろいろ疑いをかけ怪しんだが全く見当違いだったようだ。

確かに熊井さんを利用しようとはしてた。

ただそれは悪い事をしようとしていた訳ではなく彼女の夢の為だったのだ。

その為にありとあらゆる手段を使って前に進もうとしているのだ。


俺はそっと後ろを向いて彼女の部屋を後にした。

大丈夫。彼女は最高の協力者だった。

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