ピタゴラスイッチとアルゴリズム。

熊井さんは撮影後すぐに曲と動画を併せる作業を始めた。二人でああでもない、こうでもないと話し合いながら制作を進めてやっとのこと完成したのであった。



「それじゃあ投稿しますよ!」



彼女はそう言うと俺の言葉を待つ。



「いきましょう!」



俺は力みながら元気よく言った。

熊井さんがマウスを叩く音が響く。ついに熊井梨子の初めての楽曲が世に出た瞬間であった。

もう世界中の人たちがこの曲を聴けるようになったのだが当の二人にはその実感があまりない。



「これ、本当にみんな見れるようになってるんですかね?再生回数ゼロになってますよ?」



彼女は不思議そうに画面を眺めながら言った。



「そんな簡単に再生回数が増えるわけじゃないと思いますよ!気軽に待ちましょう!」



投稿してすぐに再生されるというのは結構珍しいんだと思う。

新しい投稿みたいな欄があれば話は別だろうがYouTubeにはそういうのは無い。

ピタゴラスイッチかアルゴリズムかわからないがそういうのでよく見てる系統の動画が最初のページに出てくるんだと思う。

以前心霊系の動画をよく見ていた時にはYouTubeの最初の画面がほぼ心霊系の動画で埋め尽くされたのを覚えている。

しかもなかなかそれは長い間続き、心霊系の動画を見なくなっても続いていた。


まぁ気長に待つしかこういうのはないのだろう。

一回火が付けばどんどん増えるだろうし変わらない再生回数を見ててもしょうがない!



「そしたらどんどん次の話を進めていきましょう!次の曲のイメージはあるんですか?」



「映像のイメージはありませんが曲自体は決まってます!初回がバラードなんで次はアップテンポのやつでいこうかと!」



次のイメージまで決まっているとは心強い。

熊井さんの方もやると決まってからは自分の中でのイメージがまとまってきてるのかもしれない。



「でもとりあえず一旦小休止って感じですかね!どれくらい再生回数いくか見たいのでゆっくり次の曲やり始めます!」



それがいい。急いでもたぶんさほど結果は変わらない。疲弊してしまうぐらいならゆっくりしっかり地に足を着けて前に進んでいこう。





それから五日後。再生回数はまさかの二十三回。



「思ってたより壁は厚いみたいですね」



俺がそう言うと熊井さんは一瞬悲しそうな顔をしたがすぐに切り替えて



「まぁそんなものでしょう!逆に考えて二十三人も見てくれてるんですよ!すごいことです!」



今まで届くことがなかった歌が新しく二十三人に届いた。ほんとにすごいことだ。

もしかしたらこの中にこの曲を聴いて元気が出たり感動したりする人もいるかもしれない。

俺から見れば俺の事を歌っている歌だが他の人から見れば違う見方になるだろう。それは共感したり、想像したり無限の世界となる。

そんな人が二十三人も生まれたならこれは大喜びしてもいいのではないだろうか。



「そういえば、熊井さんもToritterやってみたらどうですか?」



俺は思い出したように呟く。

Toritterがあればファンが出来た時も交流しやすそうだしこの先いろいろ使えるに違いない。



「Toritterですか。そういえばやったことなかったですね。アカウント作ってみます!」



今思えばこの提案はなかなかナイスプレーだった。

いや、今思ってるだけだから別に何も起きてないよ?こういうような感じでフラグ立てておくとここは伏線だったのか!ってなるじゃん?なるよね?

ちょっと期待しちゃうよね!

読者に優しい主人公なのだよ俺は。

実際伏線かどうかはわからないけれど。

そう思いながら俺は後ろを向いてウインクをする。



「末松さん。後ろ向いて何してるんですか?」



「あっ、えっ、なにもしてないです。」



俺は焦りながら彼女の質問に答えた。

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