どこでも。
「これで大方大丈夫ですかね」
開封したパソコンに以前話していた楽曲制作ソフトを入れたりなどの初期設定を二人で行った。
もちろん俺はパソコンに触れないので主に作業したのは熊井さんなのだが。
「めっちゃギガ減ってる!」
彼女はスマホを見ながら絶望の表情を浮かべている。
「Wi-Fiはやっぱり契約しないとダメですね。今後YouTubeにアップする時もだいぶギガ使うと思いますし。」
「でも、Wi-Fi契約するとお金結構かかりますよね?」
彼女は不安そうな顔になる。
「家ではWi-Fi使えばよくなるのでスマホの今契約しているギガを下げればそんなに大きな差になることはないと思いますよ!」
彼女は大きな差にならないと聞くとすっと立ち上がり言った。
「末松さん。Dokodemoショップに行きますよ」
彼女はいつも思い立つと早い。
そんな決断力がある所も素敵だなと俺は思いながら言う。
「どこでもお供しますよ!」
彼女は俺のくだらないダジャレにご満悦の様子で口角を上げ、目を細めてニコッとした。
「参りましょう!末さん!」
黄門様のような口調でそう発しながら彼女は玄関に向かう。
「はっ!お供いたします!」
俺もそう言いながら彼女の後についていった。
◇
「このプランの特徴がこれで……」
熊井さんはDokodemoショップの店員に大量の説明をされ、泣きそうな表情で助けてと言わんばかりの目を俺の方にチラチラ向けてくる。
「これも気になりますか!これはですね……」
彼女があまりにも俺の方をチラチラみるものだから俺の後ろに貼ってあったオススメのプランの広告が気になっているのと勘違いされ、新しい説明が始まるという無限ループが起こっていた。
ただでさえ長いスマホのプランの説明に加えてWi-Fiの説明も追加となれば長丁場になるのは必至であるのだが、根本として熊井さん自身がこういうことに詳しくないということが泣きそうになっている主な原因なのではないだろうか。
「もう、Wi-Fi契約出来てスマホ代が安くなればなんでもいいです……」
彼女は力尽きたようにうなだれて小さな声で発する。
そんな彼女の姿を見るに見かねた俺は説明されているテーブルの近くに行き彼女に声をかける。
「Wi-Fiに関してはこれにして、スマホのプランはこっちにしてみたらどうでしょう?普段どれくらい熊井さんがギガ使ってるかわからないのであれですが」
俺がそう言うとうなだれていた彼女は目を輝かせて顔を上げた。
「これとこれで契約します!」
彼女はまるで自分が考えぬいて決めたかのように自信満々に店員さんにプラン表を指で差して伝えた。
店員さんからすれば脈絡関係なく彼女がいきなりこれにするといい始めたので面喰ってしまったことだろう。しかし彼女はそんなのおかまいなしで清々しい顔だった。
「そ、それだと以前ご利用だったプランと結構違いますが大丈夫ですか?」
「大丈夫です!これとこれにしてください!」
彼女の決定は揺らがなかった。そのあともオプションが……的な話は店員さんの方からあったのだが彼女は頑なに俺が言ったやつから変更しようとはしなかった。
俺は全幅の信頼をおいてもらって嬉しい反面、ちょっと責任感を感じてしまったのはナイショの話だ。
回線工事の日付等の諸々を決めて俺たちはショップを後にした。工事と聞いて彼女が部屋に穴を開けるのかと思って焦っていたのがちょっと可愛かった。
色々あったがこれでYouTube投稿への憂いが一つなくなって次に進めそうだ。
あとちょっとで彼女の夢が一つ叶う。いや違うな。これは俺の夢でもあるんだと思う。むしろどっちかと言えば俺の願望だ。
もしそうだったとしてもこの嬉しそうに隣を歩く彼女の横顔が見れてるだけでも幸せなんだと今は思う。
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