君に響け。
「Wi-Fiって契約してます?」
焼肉を食べ家に帰ってくつろぎ始めたタイミングで俺は聞いてみた。
そういえばモデムもルーターもどこにも無いなと思ったからである。
「Wi-Fiですか?契約してませんよ!」
「家でスマホやるときとかどうしてるんですか?」
「家ですか…。私、ギガ大容量パックに入ってるので!そのまま使ってます!」
鼻をフンと鳴らしながら腰に手を当ててドヤポーズをする熊井さんが可愛いのはさておいて、Wi-Fiがないとパソコンがインターネットに繋げられない。
とりあえずはテザリングをしてインターネットに繋げてもらうしかないか。その説明をしないといけないな。
俺はそんなことを考えながら熊井さんを見ていると彼女はルンルン気分で新しく買ってきたパソコンを開けていた。
「このパソコンってメーカーどこなんですかね?」
たぶん買う時に説明したはずだが彼女の頭には全く入ってなかったみたいで彼女は尋ねてくる。
「末松さん!呆れた顔してますね!私だって何も知らないわけじゃないんですよ!たぶんSANYでしょ!それか西芝!」
「熊井さん。今回買ったのはBTOと言われる主に受注生産してる会社が作ってるやつです。それにSANYは今、パソコン作ってませんし西芝のパソコン部門は今SMARTの子会社ですよ」
彼女は少しショボンとして開封作業に戻って行った。
さっきまで元気よくハツラツで俺に話しかけていた彼女が急にショボンとしているのはちょっと面白かった。
たぶんこの天真爛漫と言わんばかりの明るい性格が彼女の本質なんだろう。
東京に来て色々あり彼女は落ち着いたような諦めのような雰囲気になってしまったのかもしれない。
あくまで俺の想像だが。
しかしやっぱりこの太陽のような熊井さんが俺は好きだ。大好きだ。
女の子は笑ってる姿が一番可愛いと言われているがそれはやっぱり間違いないと思う。
人はみんな理想があると思う。それが駄目だった時にその落差でどんどん現実というのがわかってくるものだと思う。
かくゆう俺もそうだ。ほんとはキラキラな大学生生活、社会人生活を夢見て東京に来たが現実は全く違いこんな感じになってしまった。
捻くれもしたし性格も悪くなっていったと思う。
そして
しかしそんな俺にも思い直すきっかけがやってきた。
自分を見つめ直す、自分を思い出すのには革命でも天変地異でもなくて単純で簡単なことでいいのかもしれない。
俺の場合、それは熊井さんだったのだ。
彼女と出会えただけで醜くて、無様で、どうしようもない自分が少し好きになった。
そして少し、ほんの少しだけ自分はいい人間なのかも知れないと思えた。この世界にいてもいいのかもしれないとそう思えた。
俺にとってはいまさらそう思ったところで遅いのかもしれないがもしこの気持ちをわかる人がいたら俺は全力でこの気持ちを教えてあげたい。
「末松さん!見てください!このパソコン電源入れたらキーボードがキラキラ光りましたよ!」
彼女はキラキラ輝くような目で嬉しそうにこちらに顔を向ける。
そして何より俺は伝えてあげたいのだ。
今目の前にいるこの女の子にこの気持ちを。
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