FUN:イチから始める幽霊生活。

カーテンの隙間から部屋に差し込む太陽の光。

それは朝が来て、一日が始まった事を人々に教えてくれる。

今日も昨日と同じく学校や仕事に向かう人もいれば、今日が人生で一番大事な一日になる人もいるかもしれない。

しかしどんな人に取っても今日という一日は今日しか無い大事な、とても大事な一日である。


この俺、末松和彦に取っても今日は大事な一日である。

俺は今日からまた新しい生活が始める。

この旅の終着地点がどこになるかはわからない。

しかしそれが何よりもワクワクする。

生きている時は悔いを残した人生だったが今回は絶対後悔しない!



「んー」



俺を救ってくれた人が目を覚ました声がする。

さぁ!ここから!また!始めよう!ゼロから、いや!イチから!


声の主は寝ぼけ眼をこすりながら俺に話しかける。


「あれ、末松さん、起きるの早いですね。おはようございます」





「今日は事務所に行かないといけない日なのでそろそろ行ってきますね。テレビだけ付けていきます。なんチャンにしておきますか?」



俺はそう言われて少し考えるが特に見たいものもない。



「そのままで大丈夫です!気をつけて行って来てください!」



俺がそう言うと彼女はわかりましたと言って靴を履き、俺に手を降って出ていった。

なんかあれだよね?新婚夫婦みたいじゃね?

玄関から相手が出ていくのってエモいよね。


新しい生活が始まってすぐこんな幸せを感じてもいいのだろうか。

もうこのまま天国まで飛んで行ってしまいそうなくらい幸せだ。

しかし死んでも天国には行けない事がわかっている俺はそんな妄想には浸らない。

今は熊井さんにどう恩を返していくかを考える時間だ。

熊井さんがどうやったらその素敵な声を日本中、いや、世界中に届ける事が出来るのだろうか。

冷静に考えてみる。

熊井さんの歌は上手い。そこは間違いない。しかし世界には彼女よりも歌が上手い人は山のようにいるだろう。

熊井さんがそのまま付けていってくれたテレビからは最近の流行りのヒットソングがランキング形式で紹介されている。

やはり流れているヒットソングはキャッチーでリズム感が良く、色々な人の共感を呼べそうな歌詞の歌だった。

ふむふむ。こんな感じの曲が世間では流行っているのか。いつもアニメソングばっかり聞いている俺にとってはあんまり聞き馴染みがない曲ばっかりではあったがなんとなく街中で聴いたことあるような曲ばっかりである。

やっぱり恋愛ソング等の方が売れやすいとかがあるのだろうか。

俺はアニメ声優がそのキャラのイメージソングを歌ってくれていた方がエモいし感動できるのだが世間一般の人達からしたらそうではないのだろう。

熊井さんがなりたいのは声優ではなく歌手なのだから世間一般的に合わせた方がいいに決まっている。


色々考えてはみるがあんまり音楽というものに造詣が深いわけではない俺の考えは止まってしまう。

あー、そういえば大学一年生ぐらいの時に音楽作れる人ってモテるんじゃね?みたいな発想をして曲制作ソフトをパソコンにインストールしたことがあったような、なかったような。あれはたしか元々有料だったのがフリーソフトになったとかじゃなかったっけ。

そう思っても生きてる時ならスマホやパソコンで調べてることも出来たが死んでしまっている今はどうすることも出来ない。

仕方ないから熊井さんが帰ってきたらそういうので曲を制作してYouTubeとかで投稿してみるのはどうかと提案してみよう!

それがいい!

YouTubeで曲を投稿している人は沢山いるが売れてるのは極一部だとしてもとりあえず世界中に熊井さんの歌声は届けることは出来る!

しかも熊井さんはギターも弾けるし俺が気分でインストールして全く使いこなすことが出来なかったあのソフトも使いこなすことが出来るかもしれない!


我ながらいい事を思い込んだと満足した俺は熊井さんが帰って来るのをゆっくり待った。

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