輝くもの。

結局アジは食べれたけれどイカは食べることができなかった。

しかし別に考えたところで解決するわけでもないのだから考えても仕方ない。


最近自分の身に起こることが考えても仕方ないことばかりで辟易へきえきする。

幽霊になった理由もちゃんとはわからないし、たまにモノに触れたりお寿司を食べれたりするけれどその理由もトリガーも全然検討がつかない。

しかしまぁ、この奇跡というかラッキーというかのこの状況を感謝はしているのだ。


どうしようも無い自分が一つ一つだが色々なものを得ている気がする。気がするだけだけれど。

何よりも女の子と一緒に過ごすことが出来てかつて無い充実感を感じているのは間違いない。

こういうのをリア充達の間では心のフォトブックが埋まっていくみたいな感じに言うのだろう?

以前はなーに言ってんだこいつ、みたいに思っていたがその気持ちが今の俺にはわかる!!

あそこに行ったのが楽しかったとかここで食べたやつが美味しかっただとか、そんなことより二人で一緒に過ごしたからこそ楽しくて美味しいんだよ。

的な感じのやつだろ!!

わかる!わかるぞ!!

俺も、もしかしたら古い秘密の名前があるのかと思ったが普通に末松和彦だった。


俺がそんな妄想をしている間に彼女はそそくさと食べたパックや食器を片付けていた。

決して俺は上げ膳据え膳な男ではないのだ!

触れないから片付けも出来ないから仕方なく下げてもらっているのだ。

普通に二人で暮らしているなら食器洗い、掃除洗濯もするし俺部屋キレイだし!

ごめんなさい。ちょっと汚いです。

でもやる時はやる男だもん!俺は!

実際自殺したしやる時はやるよね?たぶん。


そんなこんな考えている間に彼女は洗い物も終えて俺の隣に来た。



「まさかまた末松さんと話せるなんて思ってみませんでした」



「俺もです。熊井さんと一緒に過ごせた一週間は俺にとって夢みたいでした。だからまた熊井さんと話せてほんとに嬉しいんです」



本心から嬉しい。そう思った。



「私も嬉しいです。私にとっても特別な一週間だったんですよ?」



彼女は目を細くして笑いながら言った。





「そ、そういえば!」



俺は重要な事を思い出して口を開けた。

大事なことを忘れていた!

この先俺はどこで過ごしていけばいいのだろうか!

前までは一週間という期限があったからこそ熊井さんが自分の家に俺がいるのを許してくれていたのだ。

無期限に俺が熊井さんの家にいるってなったらそれはまた話が違うのでは無いだろうか!

どんなに心が広い人であってもずっと自分の家に居着いている人がいたらそれは嫌だろう。

俺なら嫌だもん!

しかし、熊井さんは優しいからたぶん俺がどうすればいいかって話をしたらきっと居ていいと言うに決まっている!

だからこそ!だからこそだ!

こちらから身を引かなければならないのだ!

熊井さんの優しさに甘えたくなってしまう、しかし甘えすぎるのはダメだ。

むしろ今まで散々甘えてきたではないか。

たまに会いに来るぐらいにしよう、そうすれば楽しい友人としてこれからも過ごせるはず。きっとそうだ。だから言わなければ!



「熊井さん。俺は帰ろうと思います!また会いにきますのでそしたら優しくしてやってください!」



俺は元気よく、彼女に悟られないように快活に言った。

俺がそう言った瞬間に彼女の顔からサッと笑みが引いた。



「私、末松さんの気に障ること何かしてしまったでしょうか」



彼女は今にも泣きそうに声を震わせながら言う。



「い、いや!全然そんなことないんです!」



そう言ってる間にも彼女の顔はどんどん歪み、目には涙が浮かんできていた。



「ずっと熊井さんの家にお世話になるのも申し訳ないなと思って!帰ったほうがいいかと思いまして!」



こうなったらもうスマートに身を引くもクソもないから全てを正直に話すしかない!

俺は思っていたことを正直に彼女に向けて言った。



「今後は絶対そんな悲しい事言い出さないでください!だって、あの、えーと、ずっと居ても良いですし」



彼女は泣きながらだけれど照れた表情でそう答える。



「そしたら、じゃあ、これからも熊井さんの家でお世話になってもよろしいでしょうか?」



俺がそう言うと彼女の顔はパァと輝いた笑顔でこう答える。



「しかたないですね。末松さんがそんなどうしてもって言うならうちにいていいですよ」



俺はそんなどうしても、と言った記憶は無いが彼女の光り輝いたような笑顔で何も言えなかった。

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