おいしくな〜れの魔法。

口から抜かれる箸の感覚。

久しぶりのモノを噛みしめる感覚。

そして広がるアジの味。

ダジャレではないですよ。

その後にくる醤油の風味。

そして咀嚼するたびに広がるアジとご飯のハーモニー。

ああ。美味しい。俺が好きな味だ。アジだけに。



「えっ!末松さん!」



俺はその言葉でハッと我に返る。

今、俺食べたよね?!

あれ?なんで食べれたんだろ。

もしかして再々度の復活で能力が追加されてる?!


もしかしてと思い俺は箸を手に取ろうとするがあいも変わらず箸を持つことは出来ない。

箸は持てないけど食べることは出来るってこと?

行儀は悪いが犬食いのような形であれば食べれるかもしれない。



「行儀悪いとは思うんですけどちょっと試してみたいのでイカを他の皿に移してもらってもいいですか?」



熊井さんもまさか俺が食べれるとは思っていなかったらしく即座にイカを他の皿に移してくれた。


ドクン、ドクン。

胸が高鳴り始める。

もしかしたら食事が出来るかもしれない。

自分で掴むことは出来ないけれど食事を楽しむということはできるかもしれない。

俺はイカに顔を近づける、そして口を開けて犬食いのような感じのことをする。


イカは俺の口の中には入ってこなかった。

何故さっきのアジは食べることが出来てこっちのイカは食べることが出来なかったのかは謎だが要するに、俺は結局食事が出来ないということがわかった。



「食べれないみたいですね」



彼女はガッカリしたような表情と同情が入り混じった感じで言った。



「なんか特殊能力が追加されたかと思いました」



実際ちょっとガッカリしたのは事実だがそこまでヘコんではない。

むしろあーんしてもらったのが嬉しすぎる。

もう全ての結論がそこに帰着する!!!

美人からあーんされるんだぜ?

お店でやったらどれくらいかかるんだ。

なんなら今のアジ、もうスーパーのパック寿司のレベルじゃなく美味しかったぞ!

これがあーんの魔法なのか。

あながちメイド喫茶でやってるおいしくな〜れの魔法は嘘ではないのかもしれない。

あれはほんとに魔法でただのオムライスが高級レストランで食べるオムライスを凌ぐのかもしれない。

生きていれば確認しに行くことができるのだが誠に遺憾である。



「残念ですね、なんでアジは食べれたんでしょうね」



そう言いながら彼女は俺が食べようとしていたイカを箸で摘み上げ醤油につけて自分の口の中に放り込んだ。

あら?これほぼ間接キッスじゃね?

俺が食べようとしてたやつ食べてるもんね?

間接深い方のキッスじゃん。

え?やばない?どうしよう?心臓バクバクするんだけど。

アニメとかで見たことあるやつじゃん!

男の子が飲んでるジュースを女の子が取り上げて飲んじゃって、その後気づいてお互いめっちゃ照れちゃうやつ!

しかし熊井さんは気づいてもないし全然照れてもない。あれ?おかしいなそのままいい雰囲気になるんじゃないんだっけ?アニメではいつもいい感じになるんだけど?!



「ようするに末松さんはアジのあじが好きだから食べれたってことですね。だけに。なんちゃって」



あっ。可愛い。天使かな?

なんでおっさんとか陰キャがダジャレを言うと世間からの声が厳しいのに可愛い女の子がダジャレ言ったら称賛されるの?

オッサン、陰キャも同じ事言ってるのに。

と、思っていらっしゃる方がいたら挙手してください。

はい!僕も以前そう思ってましたが熊井さんのダジャレを見て手のひらくるんくるんです!

オッサン、陰キャのダジャレと可愛い女の子のダジャレは価値が違うんだよ!!!

しかも最後の『なんちゃって』なんて破壊力抜群で悶絶する勢いでした。

まじでそれくらいの勢いなんです。



「オヤジギャグです。ちょっと恥ずかしいです」



そう言いながらちょっと照れて、前髪を弄くっている彼女を見ながら再び悶絶した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る