イミテイション・ゴールド

幽霊はそれを我慢できない。

やあ!皆さん。

いつも『それでも俺はアニメが見たい!』を読んでくれてありがとうございます!

俺の名前は末松和彦!

三度の飯よりアニメが好きな人間……いや幽霊です!

さあ!そろそろ来るんじゃないかと皆さんも思っていたあの


『総 集 編』


の始まりです!



何通目か忘れた就職活動の不合格通知を受け取った末松和彦は衝動的な感情で自ら死を選んでしまう。しかし彼は思い出す。毎週楽しみにしていたアニメの最終回が次の日曜日であったことを。そして彼はアニメが見たいが為に現世に戻ってくる。しかし幽霊であるが故にテレビに電源が入れられず誰かの家にお邪魔しようと彷徨っている時にトレーラーに轢かれそうな綺麗な女性、熊井梨子と巡り合う。梨子を助けた和彦はその流れでなんとか梨子の部屋で日曜のアニメを見る約束を取り付ける。梨子の話を聞いていくうちに和彦は彼女の助けになりたいと思い始める。梨子の夢や歌を聴いた和彦は彼女に思ったことをぶつける。流れる梨子の涙。そして梨子は忘れていた大事なことを思い出す。それ以来打ち解けた和彦と梨子は親交を深める。デーパトデート、アニメ鑑賞、食事、その他。色々なことをした上で迎えた日曜日。梨子からの提案でお台場に行く事になった二人。ついに始まった和彦最後の一日。満喫したデートの最後の観覧車で和彦が今まで経験した事がなかった事を経験する。そしてデートが終わり、始まるアニメの最終回。和彦最後の時間をとても健やかな気持ちで過ごす。現世を去った後も和彦は少し、ほんの少しだけだが望んでしまう。

そして、今、和彦が帰って来てまだ物語は終わらない!



フッフフ。

総集編と聞いてガッカリした皆さん、安心してください!

展開がそこそこ早いのが『それでも俺はアニメが見たい!』

総集編もアバンで終わります!

ここからは本編の始まりです!!





「末松さん……。なんでここに……」



彼女は涙ぐんだ顔で俺を掴みながら言う。

彼女は別に俺が戻ってきても嫌そうでも不快そうでもなかった。



「戻って来ちゃいました」



彼女の泣いた顔から笑顔が零れ落ちる。



「おかえりなさい」



彼女はあの時見せてくれた顔でそう答えた。





俺がいなかったのは約一日だったが俺達は何十年ぶりに再開したかのような感じで感動を味わった。

実際に一生の別れみたいな感じの最後だったのでたしかに再び出会えた時の感動は一入ひとしおである。



「末松さんは映画を見るために戻って来たんですか?」



感動の再開の余韻が冷めやらぬ前に彼女は聞いてきた。



「いやぁ、そんなに映画が見たいって思ったわけじゃないんですけどね」



実際のところ映画を見れなかったことに関して若干の後悔はあるもののそこまで後悔があったわけじゃない。

それよりも熊井さんと一緒にいれなくなること、彼女が大きなステージで歌う姿が見れなかった事への後悔の方が大きい。



「そうなんですか。私はてっきり末松さんは映画見たくて戻って来たのかと思いました。……」



彼女はお得意の悪戯な笑みを浮かべながらそう言った。

最後に何か言ったような気がしたのだが聞き取ることは出来なかった。

しかし彼女は悪戯な笑みの後に満面の笑みの浮かべてこう言う。



「おかえりなさいパーティをしましょう」



それは俺が大好きな彼女の笑顔だった。





彼女は以前したようにスーパーで買ってきたお寿司を並べる。

今回は一つのパックを二人で分けるわけではなく各自のパックを用意してくれた。



「出血大サービスです。せっかく末松さんが帰ってきたので奮発しちゃいました」



彼女は意気揚々とニコニコしながら言う。

決して彼女も生活が楽というわけではないだろう。

それでも彼女は楽しそうに生き生きして笑う。

そんな彼女を見ているだけで俺は本当に幸せだと感じることができた。



「まぁ俺は食べれないんですけどね」



幽霊だから食べれない。

当たり前の事だが本当に悔しい。

この人と一緒に楽しく食事が出来ればどんなに楽しいだろうか。

思い出して見れば実家で家族とご飯食べてた時は楽しかった。

くだらない話をして、笑って食べる。

そんな普通のことが幸せだったのだ。

多くの人は気づかないだろう。

食べることが出来なくなって初めてわかる。



「私があーんしてあげたら食べれるかもしれませんよ?」



彼女は悪戯な笑みを浮かべながら冗談っぽく言う。


え?まって?!あーん?

あのラブラブリア充がよくやるあれ?!

えっ!ちょっと待って!

あーんされたい!

待て待て待て!

あーんされたすぎる!

土下座でもなんでもするんでしてください!

心の中ではこんな状態だが彼女は冗談で言っているのだ。

落ち着け末松、ここはクールにかっこよく!



「熊井さんがしてくれたら本当に食べれるかもしれませんね」



あーー!かっこいい!俺かっこいいよ!俺!

冗談っぽく言われたから冗談っぽく返す。

冗談返し!!!!

これはコミュレベルが高いのではないか!

すごいぞ俺!やればできる子!元気な子!!!


彼女はまさかそう返されるとは思っていなかったのかちょっとびっくりはしたものの言葉を続ける。



「しかたないですね。出血大サービスです」



そういうと彼女はアジを箸で掴み醤油を付けて俺の方に持ってくる。


えっ?!まじでやるん?!

まじでやるのはこっちも想定してなかったよ?

あーんの時の所作ってどうやんの?

やったことないからわかんないよ!!!!



「口開けてください。はい、あーん」



俺は言われるがままに口を開ける。

あー。幸せ。まじで幸せだ。

もうこのまま死んでもいい。

まぁもう死んでるんだけど。



「あーん」



俺はそう言いながら口を閉じる。口の中に何かが当たる感覚がした。

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