何百何千の言葉より大事な一つの言葉。
「おー。また暗闇か」
思わず声に出してしまった。
まぁ説明する必要もないと思うが体というものがあるのかわからないので声を出すという感覚に近いものをしたということなのだが。
以前この暗闇に来た時とは違い今は結構冷静だ。
二度目ということもありそこらへんは
「さてさて、どうするか」
想像してたのはこのまま三途の川を渡って閻魔様のとこに向かい、地獄なり天国なりに行くのかと思ってたいたがまさかの暗闇に逆戻り。
この暗闇は待機場所みたいなものなのだろうか。
考えても答えは出ないがそれくらいしかやることがないので考えてみるが二十三秒程で飽きた。
前回は駆け出して何も起こらず、寝てたらなんか解決したので今回もやっぱり寝てみようと思う。
やっぱり果報は寝て待てってことですか!
先人達流石っす!
そんなことを思いながら俺は寝る姿勢をとる。
何回も言うようで読者の皆さんは呆れ返ってるかもしれないが敢えてもう一度言わせてもらおう。
『体という概念があるかわからないので生前の感覚を頼りにして俺は寝る姿勢をとった。』
◇
目が覚めるとそこはまだ暗闇だった。
えっ?!
なんで?!
この前は上手くいったじゃん!
何が違うんだろ!
もうわけわかんないよ!
暗闇を走るってことをしてなかったからか?
前回と違う要素といえばそこぐらいしか思い浮かばない。
あの走るって動作は想像してるより意味があったのかもしれない。
仕方ないので俺は暗闇の中を走り始めた。
前回はアニメを見なきゃ!ってという気持ちでいっぱいだったが今回は残念ながらそこまでの熱量は無い。
ゆうなれば前回は夕日に向かって海岸を走る先頭にいた気持ちだか今回は嫌嫌ついてきたに過ぎないぐらいの熱量なのである。
ダラダラ走りながら俺はふと熊井さんのことを考える。
彼女はまた笑えているだろうか。
彼女の夢は叶っただろうか。
大丈夫。あんな素敵な歌声なんだからきっと大スターになってるはず!
そんな彼女の姿を想像してしまう。
そんな姿を一目でいいからやっぱり見てみたかった。
そんなことを考えながらダラダラ走っていたらその瞬間目の前に一筋の光が……!?
などというアニメっぽいことはやはり起こるはずもなく、仕方ないので俺は走るのを辞めて寝転がりながら目を瞑った。
◇
「知ってる天井だ」
目覚めるとそこに広がっていたのは見たことある天井。
匂いも知ってる匂いだ。
よく見れば周りの景色も知っている景色だ。
そう、そこは熊井さんの家であったのだ。
あまりにも衝撃的な展開の為に気づくのが遅くなってしまったが俺が華麗に消えた時のままの熊井さんの家である。
俺はハッとして棚の上にあるデジタル時計に目をやる。
曜日は火曜日の昼過ぎだった。
月曜まるまる俺は暗闇の中にいたということか。
まさかこの世界に再々度戻ってくることになるとは考えてもみなかった。
まだ俺の物語は終わらないということか?
しかし復活した目的であるアニメの最終回はしっかり見ることが出来たし、何故戻ってくることになったのだろうか。
全知全能コンピュータである俺の頭をフル回転しても結論は導き出せない。
うーん、難しく考えても答えは出なさそうだし熊井さんの大スターになるのを見る為にこの世界に帰ってきたという事でいいか。
どうせ考えたとこで答えは出ないんだし。
そんなことよりも熊井さんはどんな反応をするだろうか。
喜んでくれるだろうか。まだいるんですか?って感じの反応をするだろうか。
どちらにしても、もう一度彼女の姿が見れる、歌が聞ける、話をすることが出来るということに心から感謝した。
神様!ああ!神様!本当にありがとうございます。
もしかしたら彼女の夢が叶う瞬間が見れるかもしれない。
そうなったらどんなに素晴らしいことか。
嬉しくて死んでしまうかもしれない。
皆さん!久しぶりに合いの手タイムが来ましたよ!せーの!
「もうお前死んでるやないかーい!」
たくさんのご参加ありがとうございました。
そんなことはどうでもよくてあと少し経ったら熊井さんは帰って来るだろうか。
帰ってきた時の第一声を練習しておかなければ。
何が一番印象がいいだろう。
「貴女の為に再び舞い戻ってきた王子です。『キラッ。髪サラサラ〜』」
「貴女のことを考えてたら神様がもっとそばにいてあげなさいと言われ戻ってきた王子です『キラッ。髪サラサラ〜』」
ありとあらゆる言葉が思いつくがいまいちピンとこない。
まだ時間は昼過ぎなので熊井さんは帰ってこないだろうからゆっくり考えればいいさ。
キュンキュンするようなカッコよくてイケメンなセリフを。
その瞬間。
ガシャ。
回る鍵。再び回り始める世界。
「えっ……?!えっ?!末松さん……!」
彼女はいきなりの事で一瞬驚いたようだったがすぐさま涙ぐみながら俺の方に駆け寄ってきて俺を掴む。
そして俺はどんなかっこいい言葉よりも何百何千の言葉を並べるよりも俺が言いたかった言葉を言う。
「ただいま」
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