wander, wander and ……。

お台場。

そこは東京都港区台場、品川区東八潮、江東区青海のうち青海南ふ頭公園以北から成る人工島のエリアのことを指す。

シンボルとしてパレットタウン大観覧車を有し、巨大ショッピングモール、zepp東京、チームラボもある。

さらにはシンボルプロムナード公園で行われるオクトーバーフェストやお台場青海地区P区画で行われる様々なイベントがあり、リア充御用達のウェイウェイアゲアゲエリアだ。

通常、非リアオタク達にとっては近づきがたい、近づくことが出来ないエリアとなっている。

太陽の下の吸血鬼のように、陸に打ち上げられた魚のように、生存を許されていない場所なのである。

しかしそんな場所でもあるにも関わらず、年に2回非リアオタクがリア充を駆逐し、お台場という地を制圧する時がある。

これを人はコミックマーケット神と人の晩餐会と呼ぶ。

その時に限り非リアオタクはお台場を闊歩し、満喫する。

周りの目を気にせず、自分達が支配者であるかのように堂々と悠然に街を行く。

そう、その財布に夢とお金を詰め込んで。


そして俺は今、立っている。

お盆と年末神と人が近づく日ではない、ただ普通の日曜日に、ただの平凡な日曜日に東京テレポート駅のロータリーに立っているのである。


眩しい!!!

リア充共が放つ輝きが眩しい!!!

駅のエスカレーターを降りるとそこはリア充達が溢れる光り輝く場所であった。



「何してるんですか?行きますよ?」



熊井さんに呼ばれ俺はハッと我にかえる。

もちろん俺は熊井さん以外には見えていない。

しかし彼女はあまりに普通に、隣に生きた人間がいるような音量で俺に喋りかけてくる。



「まずいですよ!熊井さん完全に変な人に思われちゃいますって!」



そんな俺の心配をよそに彼女は笑顔で歩き続けている。



「私は、私にしか見えない幽霊さんが見える変な人ですから、実際問題変な人に思われるということは間違ってないと思いますよ」



めちゃくちゃな理論だがたしかに筋は通っている。

一本取られたと思ってしまう。しかしなんていうか彼女がそれでいいならそれでもいいのかもしれない。



「さぁ!最初はチームラボ行きますよ!」



彼女は一歩前に出て、ロータリーの奥の方の観覧車を指差しながら意気揚々と言った。



「一度行ってみたかったんです」



彼女は俺が横に追いつくと嬉しそうに言う。

俺も行ってみたかった旨を告げると彼女は満足そうに微笑んだ。





『Wander, Explorer and Discover さまよい 探索し 発見する』



やばい。ワクワクする。

入口からこんなワクワクするもんなんだ。

横を見ると熊井さんもまるでおもちゃを買ってもらった子供のような顔で待っていた。



「すごい!めちゃ綺麗ですよ!末松さん!」



映し出されていた色とりどりの花に二人でまるで子供のようにはしゃいでいた。

何度もになるが周りから見れば俺は視認出来ないので熊井さんは一人でまるで横に人がいるかのようにはしゃいでいる変な人なのである。

そんなことも露知らずといった感じで俺に話しかけてくる。



「立ち止まってると蝶が寄ってくるのに末松さんには寄って来ないですね。なんででしょう?おかしいですね?嫌われてるんじゃないですか?」



彼女はとぼけたフリをしながらニヤニヤと俺の方を見てくる。



「僕のあまりの魅力に蝶も寄ってこれないんですよ」



自分でもよくわからないことを言ってるなと思ったがそれでも彼女はとても嬉しそうだった。


俺たちはその後もチームラボを満喫した。

広い部屋で滝が流れているような場所では先程の蝶のようなくだりを再度行ったが、何度やっても彼女にとっては楽しいらしく終始ニコニコしていた。



「末松さん、写真撮りましょう!」



ふと気がついたように全面マジックミラー張りのランプの森で彼女は言った。



「ほら!近づいてください!」



「カメラには熊井さんしか写らないですよ!」



スマートフォンをインカメラにして写し出されている画面には無論、熊井さんしか写っていない。

そんなことを気にせず彼女は横にいる俺とインカメラにした画面を交互に見ながら画角を決める。



「いきますよ!笑って〜!ハイチーズ!」



彼女はそう言うとカメラのシャッターを切った。

彼女はすぐさま写真を確認する。

自分一人しか写っていない写真を。

そして顔を上げ笑顔で言いながら俺にスマートフォンを見せてくる。



「二人ともいい笑顔ですね!」



「ほんとうだ。二人ともいい感じの笑顔です」



そこには笑顔で写る女性が一人しかいなかった。

しかし、確かにそこには笑顔の俺が居たとほんとうに思えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る