俺の知らない物語。

「なあなあ、末松、お前主人公の男が怪異にいきあった女の子達とイチャイチャするアニメ見てた?」



時間は遡って高校生の時のワンシーン。


これを聞いてきた同級生の名前は飯村。

数少ない高校生の時の友達だ。

非リアのアニメフレンズでありなんだかんだずっと一緒にいた腐れ縁の友達である。

そんな飯村が昼休みの弁当を食べ終わった後で片付けをしている時に唐突に聞いてきた。



「おれさー、思ったんよ。エンディングの時に『アレガ、デネブ、アルタイル、ベガ、君が指差す夏の大三角』って歌詞あるじゃん?アレガ、デネブ、アルタイル、ベガで四角じゃね?」



まったく、何を言っているんだと思う人もいるかもしれないが彼はこれ以上ないというくらい真面目に聞いてきているのだ。

まず初めに、あのアニメはたしかにたくさんのヒロインとイチャイチャする話ではあるのだけれど、何ならヒロインが全員魅力的で羨まけしからんなのではあるのだけれど、あの物語の面白さはそこではないということだけは声を大にして言いたい。

そして次にキャラクター同士の会話や描写。アニメに至っては特徴的な背景の作り方やキャラクターの魅力。原作のラノベを見れば言葉選び、言葉遊びが非常に心惹かれるものであって決してイチャイチャが全ての物語という訳ではない。

最後に、ほんとうに重要で大切なポイントは男キャラも非常に魅力的であるという点である。

何なら俺が一番好きな男キャラはこの物語のキャラクターであるということだ。

決してアロハのおっさん、もとい、原作とアニメで非常に印象が変わってしまったキャラではなく不吉な、キャラクターのことなのだが。

しかして俺はその物語が大好きなのである。大ファンなのである。

そんなこんなで四百文字近くをある物語が、ある物語シリーズが素晴らしいということについて語ってしまったけれど話を本題に戻すと飯村は完全な間違いを犯している。

あの歌詞は決して『アレガ』という星のことを指しているわけではないということを。



「飯村、お前はすっごい間違いをしてるよ。『あれが、デネブ、アルタイル、ベガ』なんだよ。そうしたら3つだろ?アレガなんて星はないわけ」



飯村はおー、なるほどと返す。



「『お前はなんでも知ってるな』」



これもその物語からの流用だ。もちろん俺は飯村こいつが望んだ答えを返す。



「『なんでもは知らない。知ってることだけだよ』」



そして話は現在に戻ってくる。



「意外と東京でも見えるものですね」



「あれが、デネブ、アルタイル、ベガ。有名な夏の大三角ですね」



俺はドヤ顔で指を指しながら言う。


最寄り駅から住宅街を抜けると広がる都立公園。

真っ暗な芝生を星を見ながら歩く。

昼間には子供が元気に走り回る声があちらこちらから聞こえてくる長閑のどかな公園なのだが時間が夜ということもあり人は全くいない。

桜の時期にはこの時間でも宴会の声が止まらない公園だが桜の時期は終わったのでその声もない。


熊井さんは星を見てあー、あれかと呟いた後横で歩いていた俺より少し前に出て前屈みに振り向きながら言った。



「末松さんは色々知ってますね」



そして俺はこう返す。

たぶん彼女が望んでもないし知りもしないこの言い回しで。



「色々は知らないですよ。知ってることだけです」



その後公園を後にして彼女の家へ向かう。

家に着くとすぐに彼女はシャワーを浴びてきた。

そして最終回を見る為にリモコンに手を伸ばしソファーに座っている俺の隣に座る。

いつもは二人がけ用のソファー端と端でお互い触れないくらいの距離で見ていたが今日の彼女は俺のすぐそばに、肩がくっつくほどそばに座った。


俺がびっくりして彼女の顔に目を向けると彼女も俺の顔に目を向ける。

悪戯な笑顔でもなく、楽しそうな笑顔でもない、しかし満ち足りたようなそんな笑顔で彼女はこちらを向いて口を開く。



「今日は楽しかったですね。たぶん、私の中で忘れられない一日になりました」



そう言うと彼女は目を瞑り俺の肩にコツンと額を一回ぶつけテレビの方に向き直す。


それを見て俺もテレビの方に向き直した。

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