またいつか巡り会えるように。

「東京に来てから観覧車に乗ったのは初めてです」



熊井さんが少しずつ高くなる景色を眺めながら話しかけてきた。

観覧車に乗るなんて何年ぶりだろうか。

子供の頃に親に連れて行ってもらった遊園地で乗った時以来ではないかと思うぐらい記憶が曖昧な大昔になりそうだ。

二人で向き合って観覧車に乗っていると心臓のドキドキが止まらなくなる。

死んでいるので心臓が動いているのかは定かではないがそんな感じということである。



「東京は光がいっぱいキラキラしていてきれいですね」



宝石箱を見ているようなキラキラした目をして外を眺めている彼女に俺は目を奪われる。

オレンジ色のライトが道を照らす高速道路。

そこを走る自動車のヘッドライトやテールランプ。橋を彩るライトアップ。遠いビルの窓の光。

見るもの全てがキラキラしていて輝いている。

死ぬ寸前全てが真っ暗になったように思っていたあの時の自分に教えてあげたい。

世界はこんなにもキラキラに輝いているんだよと。

このキラキラを知ることが出来たのは間違いなく目の前のこの人のおかげだ。

やっぱりこの人の為に何か出来ないものかと考えてしまう。

彼女はそんなことを望んでもいないかもしれないが俺はやはり彼女にこの恩を返したい。


何も思い浮かばないまま観覧車は上へ上がっていく。

彼女に伝えたい想いはたくさんあるのに言葉にすることが出来ない。

色々浮かんでは言葉にする前に消えていってしまう。

頭がごちゃごちゃになってる俺を見ながら彼女が先に言葉を発する。



「私は、末松さんに会えて幸せでしたよ」



いつもは悪戯な笑顔をして見せる彼女が真正面で屈託のない笑顔で言う。



「末松さんの感情の起伏が激しいところも、たまに頼りになるところとか……」



そう言うと彼女は言葉を詰まらせた。

泣きそうになってるのか、暗くてよく顔が見えない。



「俺も熊井さんに会えてとても幸せでした」



涙が溢れて来る。

熊井さんといたのはたった一週間弱だったが彼女は思い残していたと思うことを全て叶えてくれた。

それだけでやっぱり満足だ。

俺が彼女にしてあげられることはたぶん無い。



「青信号でも突っ込んで来るトラックには気をつけてくださいね」



俺は必死になって言葉を絞り出した。

必死に堪えているがだいぶ涙声になってしまったと思う。



「はい。青信号でも注意して渡るようにしますね」



夜景に照らされた彼女の笑顔には涙が伝っていた。


観覧車が一番高い位置に来たときに彼女はいきなり向かい側の席を立ち、俺の目の前に来て頬にキスをした。



「湿っぽいのはこれで最後です!あとは笑顔で行きましょ!笑顔で!」



彼女は元気よく言うと向かいの席に戻っていって外を眺め始めた。

そんな彼女を眺めながらまたいつか巡り会えますようにと俺は願う。

アニメの主人公のようにそんなことを思ってるうちにどんどん観覧車は終わりへ近づいていく。


楽しかったデートもまた終わりに近づいていくのを感じた。

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