全知全能コンピュータ。

「ただいまです」



熊井さんは貸出用バッグにパンパンにDVDを入れて帰ってきた。



「末松さんが言ってたアニメのやつ、借りられるだけ全部借りてきました!」



彼女はせっかく見るのだから自分も楽しむ為に全部借りてきたみたいである。

なんていい子なのだろう。

一緒にテレビを見てその後感動を分かち合う、今までそんなことは絶対に出来なかった。

そのシチュエーションに憧れたし夢にもみたシチュエーション。

存外、幽霊になるのも悪くないかもしれないな。

ほんとうにそう思ったのである。

この幸せな気持ちを持って昇天しよう。

幽霊になったことで思い残すことが一つ一つ無くなっていく。

ラッキーだな。

ほんとうにそう思ったのである。



「最終回まであんまりないですからね、どんどん見ていきましょう」



彼女はお風呂を上がりその長い綺麗な髪を乾かした後でDVDをプレイヤーに入れて缶ビールを開ける。

少しワクワクした顔をしながらプレイヤーを操作している彼女の顔を見ながら俺は笑みを浮かべる。





「末松さん、一回寝ましょう、今日もバイトなので一応寝とかないと」



あれから俺と熊井さんはぶっ通しで1期を全て見通していた。



「ワクワクしましたし元気が出ました、そしてたしかに末松さんが言うようにちょっと泣いてしまいました!

とりあえずおやすみなさい」



たしかに熊井さんの目は少し赤く充血していた。

ちなみに俺は涙ボロボロ鼻水ぐちゅぐちゅの顔をしていた。

何度見ても泣ける。マジ泣ける。

なんでこの子達はこんなに美しく神々しいのだろうか。あー思い出したらまた泣けちゃう。どうしよう。

そんなことを考えているうちに熊井さんはベッドに潜り込んですぐさま眠りに就いていた。

連続してアニメを見るというのは慣れていない人間からすればとても疲れる事だと思う。

スヤスヤ眠る彼女を少し確認して俺もソファーに横になる。

ほんとうはずっと寝顔を見ていたいのだけれどそれは流石に変態なのでちらっとみただけに留めておく。





彼女はおやつの時間ぐらいに目を覚まし遅めのお昼ご飯の準備をし始める。



「末松さん、続き見ますよ!」



準備が終わったら早速DVDプレイヤーを操作しながら彼女は言う。

ご飯を食べながらアニメ見るなんて熊井さんも立派なオタクになったものだ。

まぁそれくらい誰が見てもこのアニメはハマってしまうし面白いということなのだけれど。


アニメもついにシーズン2に突入し、またワクワクが始まる。

やっぱり2期も面白いなぁ、何回でも何十回も見れる!



「これで借りてきたやつは終わりですね」



あれ?まだ全然前半なのに借りてきたやつが終わってしまった。

アニメはDVD化するのに時間がかかる事をすっかり失念していたのだ。



「どうしましょう?これでは最終回まで話が繋がらないですね」



彼女は少し寂しそうな顔をしながら俺の方を見ている。

俺は脳をフル回転させて考える。さながらスーパーコンピュータレベルの処理能力だ。ふっ、あー、もう今日の天気予測も完璧にできてしまうぐらいの処理能力だ!嘘です、昨日ニュースで見ただけです。

そしてスーパー高性能末松コンピュータは一つの結論にたどり着いた。

一兆五千八百六十七億三千九百二十五万八千七百三十三通りの内の一つの答え。



「堀さんにDVDに焼いてもらうっていうのはどうでしょう?」



そう、元あるじ!堀!彼は録画派が故にたぶん録画データを持っているのである!

しかも熊井さんに勧めていたことを考えるとたぶんノリノリでやってくれるということを加味した上での結論だ。

皆さんも気づいていたかもしれないが俺が元あるじのところに行ったことも伏線だったのである!!!!!!

全てが繋がってくる!!!!!

脳汁が溢れる!!!!!!!!

まったく、恐ろしくなるよ。

この自分の賢さが!!!!!!



「あー!たしかに!ちょっと堀さんに連絡してみます!」



そういうと彼女はすぐさまスマートフォンを取り出し連絡を始めた。

連絡をして数分のうちにスマートフォンが鳴る。



「今日シフトの時に持ってきてくれるとのことです!これで最終回に間に合いそうですね!」



やはり俺の予想通り!!!!

計画通り!!!!!

あるじはできる男だ。

この結果はもはや確約されたものだったが俺の満面の笑みは止まらない。

この世の全ての秘密を知ってしまったスーパー末松コンピュータはもしかしたら消されてしまうかもしれない。

あー、全知全能のこの自分が恐ろしい!!!


それにしても堀のレスポンスの早さは目をみはるものがある。

まとめサイトで知った情報によるとレスポンスが早いのとマメに連絡を返す男はモテるらしい。

やはり堀という男はモテモテの非童貞!!!

羨ましい!けしからん!でも今回はよくやった!元あるじ!!

一回だけ九死に一生を得る加護を掛けといてやろう。

実質残機が一個増えている状態だ。嬉しかろう、元あるじよ。

これは俺からのプレゼントだよ。


全知全能プレイを脳内で繰り返していたがもちろん俺にはそんな加護を与える力も無ければ全知全能でもない。


とりあえずそんな妄想をしてしまうくらい熊井さんと一緒に最終回が見れるのが嬉しかった。

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