幽霊のお出かけデート。

「……松さん、末松さん!

起きてください!

出かけますよ!」



女の子に朝起こされることがこんなに幸せだったなんて知らなかった。

普段寝起きは悪い方なのだが今回に限っては一瞬で目が覚めた。



「どこに行くんですか?」



そう言いながらおれはソファーから体を起こす。

彼女の布団で一緒に寝れなかったのはほんとにほんとに残念だ。

ちなみにソファーには何故か座れる。

色んなものはすり抜けるのにソファーとかベッドには座れる。もちろん寝れる。

個人的には重力がかかっているところはすり抜けないで済むみたいな感じがする。

まぁあと数日だからもうどうでもいいような気がするが。



「姉が出産したのでそのお祝いを買いに行こうかと。

ほんとは一昨日買いに行く予定だったんですが、あの事があって行けなくなってしまったので夜のバイトまでに買いに行くことにしました」



なるほど。

元々彼女は出産祝いを買いに行くために出掛けていた途中であの事故に巻き込まれてしまい俺と出会うことになったということか。



「どこまで行くんですか?」



「新宿まで行こうかと」



何故俺が連れて行かれるのかはわからないがとりあえず彼女とお買い物デートが決定した俺はとてもワクワクドキドキな気持ちになったのは言うまでもない。





人生初めての女の子とお出かけデート!

お出かけデート!この言葉だけで気分は爆上げだ。

デートの途中で手を繋いじゃったりするんだろ?

人混みに巻き込まれた時に手を引っ張って


はぐれちゃうから(イケボ)


みたいな感じで近くに手繰り寄せて密接するんだろう?

俺知ってるんだかんね!

アニメで見たからね!!


よく考えたら人生は終わってるし手も握れないからそんなシチュエーションになることはないことがわかってめちゃくちゃ泣きそうになった。

そして何より俺はイケボではなかった。


そんなこんな間に電車は新宿駅に着きそうなアナウンスを始める。

彼女は言葉こそ発さないものの俺を見て楽しそうな顔をする。

もちろん俺は彼女以外には見えていないから不自然にならない程度に俺と目を合わせる。

目線でもう着きそうっていうのを電車の液晶モニターと俺の目を交互に見ることで伝えてくる。

俺はそうですねと返す。

ドア横の仕切り板の前で二人でそんなやり取りをする。何気ない瞬間だがほんとに心地よかった。





新宿に着き向かったのはデパートの赤ちゃん用品専門の売り場。ちょっと高級そうな感じが漂っていた。



「あの、すいません。出産祝い用のものが欲しいのですが」



彼女は店員さんに尋ねる。



「出産祝い用のギフトですね。こういうものがございますが。何かご希望とかありますか?」



テキパキと店員さんに様々なギフトを出され、彼女は狼狽えていた。

さすがはデパートの店員さん、反応を見てパパパッと様々な品を出す。

コミュ力の鬼だ。

この人は鬼だ。

熊井さんは俺の中ではコミュ力がだいぶ強いと思っていたがそれを遥かに圧倒するコミュ力。


彼女は少し検討する旨を店員さんに伝え、店員さんには一回下がってもらった。



「末松さん、どれがいいと思いますか?私的にはお洋服セットかタオルセットかと思うんですが」



彼女は店員さんに隠れるようにして小さな声で尋ねて来た。



「個人的にはお洋服セットがいいかなって思いますね。赤ちゃん会いに行った時に来てたら可愛いでしょうし」



彼女はふむという表情をして少し悩んだ後に一言だけ小さな声で



「一万ッ、二千円ッ」



と呟いて店員さんの方へ向かって行った。



彼女は無事郵送の手続きも終わりデパートを出ることになった。



「思ったより高かったですね」



「まぁギフトですしそんなものの様な気がしますよ」



俺は当たり障りのない言葉を返す。



「まぁせっかくですしお昼ごはん食べて帰りますか!」



彼女はニコッと笑いながら言う。



「まぁ末松さんは食べれないんですけどね」



彼女はそう言うとお得意の悪戯な笑顔をした。





「私はそろそろバイトに行ってきます。末松さん暇だと思うのでテレビ付けて行きますね」



彼女はテキパキとバイトの準備を終わらせ気を使ってテレビまで付けて行ってくれた。

そういえば俺死んだけどバイトはどうなっただろうか。

せめて死ぬ前に死ぬんでバイト辞めますぐらい言っとけばよかったのかもしれない。

そんなことを考えても仕方がないとは思いながらもやはり後悔はしてしまう。

根は真面目な人間なのだ。俺は。


テレビをボーと眺めている。

リモコンに触ることもできないから面白くなくても変えることができない。

熊井さんに何時に帰ってくるかぐらいは聞いても良かったなと思いながら、そろそろ日付が変わりそうになっていた。

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