幽霊詐欺師。

ギターが奏でるのは先程とは全然違うアップテンポのリフ。


彼女が歌うのは先程とは違うふわっとした霞むようなイメージではなくしっかり鮮明に情景が思い浮かぶリリック。



『誰にも届かなくたって』彼女はうたう。


『世界はこんなにも輝いているんだから』彼女はうたう。


『歌にしよう』彼女はうたう。


『私が明日を見失わないように』



彼女は歌い終わり、目をつぶりながら深呼吸をする。

吹っ切れた表情で目を開ける。

先程のように俺の表情を伺うようには彼女は俺を見ていない。

どうだ!私の歌は!とでも言うような感じの雰囲気を纏っていた。


そんな彼女を見つめる俺は……


泣いていた。

ただ、ただ泣いていた。


ここのフレーズが刺さったとかではない。

一曲まるごと俺に刺さった。



「こんな感じですね」



彼女はまっすぐ俺を見つめながら言った。



「すっごくよかったです。どこがいいとかここがいいとかは上手く言えないですが、すっごくよかったです」



何にも媚びることなく、何にも配慮せず、彼女は彼女のうたを歌った。

だがそれでいいと思う。


現国のテストで出るような筆者の感想を述べよ、なんて言うのはあとから読んだ人の後付だ。

筆者の気持ちなんて筆者にしかわからない。

だがそれでいいと思う。


彼女の気持ちなんてわからないし、もしわかった感じたとしてもそれは俺の気持ちだと思う。

だがそれでいいと思う。



「また末松さんはまた泣いてますね」



彼女はにこやかな笑顔を俺に向ける。



「なんか吹っ切れたような気がします。

今考えてみれば最近の私は歌を歌うの楽しくなかったような気がします」



彼女は遠くを見るような感じで言う。



「作る曲も皆に共感して欲しいって思って当たり障りのないものになってしまってた気がします。売れるようにって思いが先行してしまって歌うのが目的なのか売れるのが目的なのかわからなくなってしまってたのかもしれません」



彼女は彼女なりにいろいろ藻掻いてやってきたのだろう。

たぶん売れるというのは彼女の言ってるいろんな人に共感される曲のほうが売れるのだろう。

恋愛ソングなんて

共感できる!!

というのが売り文句になることがあるくらいなのだから。



「僕はクリエイターって言うのは基本自分の好きの押し売りでいいと思ってます。

俺はこれが好きだ!こう思ってる!

俺の絵はここがかわいい!な?そうだろう?

みたいな感じで自分の好きを人に押し売って回ってなんぼかなって思いますね」



まぁクリエイターになったことなんて無いんで実際の所はよくわからないけれど、俺はそう思う。

人に自分の好きを押し売って回ってそれでなお羨望を集めて皆がついてくる、そういうものなのではないだろうか。

何度も言うが俺はクリエイティブな事をしたことないからわからないのだけれど。



「私もそう思います。いろんな分野で神様って呼ばれるような人は大概、末松さんの言う通りで自分の意見の押し売りなような気がします」



晴れやかな表情で、そして軽やかな口調で彼女はそう言った。

なんせ彼女たった今、俺に向かって『私が明日を見失わないように』と歌ったのだから。

間違いなく彼女の気持ちの押し売りだ。

でも彼女が何を考えているのか、何を思っているのか彼女とは何なのか少しわかった気がする。



「末松さんは面白い人ですね。すぐ泣くし、感情表現豊かだし。

さっきはボロボロ泣いてたのに、今はすっごい笑顔ですしね」



優しい笑顔しながら彼女の言葉は続く。



「でも優しい人なんですね。

なんだか心の中のモヤモヤが晴れたような気がします。

もうちょっと宮城に帰らないで頑張ろうかなって気持ちになってきました。

まぁ結果的に末松さんの口車に乗せられて歌わされたような気がしなくもないですが」



「『まぁ騙されたと思ってチャレンジしてみな』」



「なんですか?それ?」



「アニメの台詞です」



「しょうがないですね、騙されてあげましょう」



彼女は笑顔で頭を揺らしながら俺に向けて言った。



「『こいつめ』」



そう言っておれは彼女の額に人差し指をコツンと当てた。

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