軽やかに、笑む。
彼女はスキップしながらスーパーへ向かう。
もちろん俺も一緒だ。
これがデート?!?!
女の子と一緒に街を歩く……
これは……
間違いなく……
デート!!!!!!!!
「末松さんは食べ物、何が好きだったんですか?」
彼女は軽やかにスキップしながら俺に質問してきた。
21時近いといってもぼちぼち人は歩いている。
周りから俺は見えていないわけだから彼女は一人で喋ってる変な人になってしまっている。
傍から見ればかわいい女の子が隣に誰かいるように話しかけてる異様な光景に見えるだろう。
「熊井さん……僕、他の人に見えてないんで熊井さんが変な人に見られちゃいますよ!」
「いいんです!
私は今すごく気分がいいので気にしません!
それにさっき私の知り合いにですね、私はこうなんだ!って押し売りする人がクリエイティブな人なんだって言われたんです。
そして私はその人に騙されてしまったのです。」
彼女は悪戯な笑みを浮かべながら俺の方に振り向いて言った。
こりゃ一本取られた。
でもすごいかわいい。
いやマジですっごいかわいい。
うん。すっごいかわいい。
「それは悪い詐欺師に引っかかっちゃいましたね。困ったものです」
彼女はその言葉を聞いて嬉しそうに笑う。
「で!末松さんは何が好きなんですか?」
好きな食べ物はたくさんある。
焼肉も好きだし、ピザとかハンバーガーとかも好きだ。
そして俺は食べれないものがない。
これは母親と小学校の時の担任の福岡先生のおかげである。
福岡先生は定年間際の女性の先生だった。
そして福岡先生は給食を食べきるまでは絶対に席を立たせてくれない先生で、昨今だと問題になりそうだが俺が小学生の時はまだぎりぎり問題にならない時だった。
何故か給食のパンが嫌いだった俺は給食の時間でパンを食べきることが出来ず一人昼休みも次の授業の時も一人給食のお盆を机の上に置いて必死にちょびちょびパンを齧ってたのはいい思い出だ。
そして母親も出てきた料理を食べきるまでは絶対に席を立たせてくれなかった。
母親と福岡先生の英才教育を受けた俺は気がついたらゲテモノだろうがなんだろうが人が食べれるものはなんでも食べれるようになっていた。
高校生の時にクラスの文化祭の打ち上げで全員でご飯を食べに行ったときに好き嫌いが多くてほとんど食べれない子を見たときは本当に母親と福岡先生に感謝したものだ。
好き嫌いで食べれないものがあるのは意外と惨めであるこということに気づいたのはこの時だった。
え?陰キャオタクなのに打ち上げに行ったのかって?
ふっふっふっ。
高校一年の時は陽キャのクラス委員長がいきなり文化祭後のホームルームの時に打ち上げしますと言い始め、基本全員参加で!と言い半強制的に全員引き連れてお好み焼き屋さんに行ったので俺も行けたのである。
あの陽キャはすごくいいやつだった。
見た目とかで人を判断せず、陰キャオタク達の話が聞こえたら俺もそれ見てる!面白いよね!って入ってきて俺たちの話をちゃんと聞きいてそんなのあるんだ!色々知っててすごい!また話そう!もっと知りたいと言ってくれて対等に話してくれた。
あのときは陰キャオタクにもしっかり教室に居場所があって楽しかった。
あいつは本当にいいやつだった。
そして高校二年からはそいつとクラスが離れた為に、クラスの打ち上げには呼ばれなかった。
「……末さん?末松さん?」
彼女があれ?という感じで俺を見つめていた。
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしてしまってました。
そうですね。やっぱりお寿司が好きですかね」
お寿司は昔から大好きだった。
誕生日に親が外食に連れてってくれる時に毎回お願いしていたぐらいお寿司が大好きである。
しかも誕生日の時は一皿百円ではない回転寿司に連れてってくれたのはいい思い出だ。
「なんで僕の好きなものなんて聞くんですか?」
まさか、俺に仏壇にお菓子を置くように供え物をしてくれるのだろうか。
なんていい人なんだろうか。
また涙が出そうになる。
「悪い詐欺師さんの前で食べてやろうかと思いまして」
彼女は満面の笑みで嬉しそうにそう言った。
前言撤回。
なかなかいい性格をしていらっしゃる。
それでも嬉しそうに笑う彼女はかわいかった。
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