美女と幽霊。

幽霊一人、美人一人、同じ屋根の下。


これは……恋の予感ッッ!

となればまさにラブコメなのでライトノベルにはピッタリなのではないだろうか。

しかし残念。皆様がご覧になってるのは


幽霊(ブサメンアニオタ)一人、美人一人、同じ屋根の下。


なのでラブコメ展開にはならないのです。

まったく、自分の人生は自分が主人公とはよく言ったものだ。主人公だとしても他の人に描写されないと残念ながらそれは脇役と変わらないのである。というのが俺の持論です。


しかし実際の所、男と女が一つ屋根の下で生活をしているのに何も起こらないものなのだろうか。


童貞の俺には未知なことがあまりにも多すぎる。


女の子って普段何をしているのだろうか。生前はそんなことを考えたことも無かったがこのシチュエーションになり始めて気になりだしてきた。

まぁ俺が女の子だったら毎日四、五時間は自分の髪の匂いを嗅いでると思うんですよ。はい。


よく考えたら俺が女の子の行動に関して知っているのはアニメの中での話しか知らなった。そしてアニメというのは部屋でやることがない等の時は劇中に映らないので……


簡単に言うと俺は何にも知らないということである。



「末松さんも自分の家のようにくつろいでくださいね」



彼女の優しさには本当に頭が上がらない。

簡単に言えば見ず知らずの男を家に泊めているようなものであるのに俺への気遣いも忘れずにしてくれる。

迷惑をこれ以上かけないように日曜にあのアニメを見たら早く昇天しよう。

自分の意思で昇天できるかどうかはわからないがこれ以上彼女に迷惑をかけ続けるのはさすがに申し訳ない。


最後の最後にいい人に出会えてよかった。死んでしまった後悔が少し薄れていくのを感じる。

もし可能であったなら生前に出会うことが出来ていたらと思いながら俺は彼女に迷惑が無いように寝るふりを始めた。





寝るふりをしていたはずが気が付いたら本当に寝てしまっていた。

今は朝。彼女が残したであろうメモ書きが机の上に置いてあった。



「末松さんへ

申し訳ありませんが私は所用で外出します。末松さんは扉をすり抜けて外に出ることが出来ますよね?鍵は閉めていきます。夜には帰りますのでお願いします」



さて、きましたよ皆様!

一日ぶりのクンカクンカチャンス!

逃すわけにはいかない!乗るしかないこのビックウェーブに!


皆様のお気持ちはわかりますよ。

どうせそんなことを言いながらやらないんでしょ?また何だかんだ言い分けつけて実行しないんでしょ?

そう思われも仕方ないかもしれない。しかしこの末松、こう見えても男に生を受けて二十二年。男には、ダメだとわかっていてもやらなきゃいけない時があるんだ!

うおぉぉぉおおおお!


俺は一直線に洗面所に向かう。

彼女の脱ぎ捨てたTシャツがある。


ドクン、ドクン


心臓の高鳴りを感じる。


とてつもない悪いことをしているかのような圧迫感。

しかしその中に感じる確かな高揚感。

二十二年間感じたことのない感覚に襲われながら俺はTシャツに手を伸ばす。


それはアニメキャラが禁断の果実に手を伸ばすシーンのようにゆっくり、ゆっくりと。

俺の禁断の果実はここ(洗面所)にあった!


柔らかい布が手に触れる。

俺はその布をまるで赤子を抱きかかえるような手つきで体の方に持ってくる。


今俺は女の子が脱いでそこまで時間が経っていないTシャツを握り締めている。

その現実だけで気絶してしまいそうだ。


そして俺はゆっくり、息を吐き始める。

肺に一片の空気でも残していてはだめだ。

死してなお神が与えてくれたこのビッグチャンスを無駄にするわけにはいかない。

ここで死んでもいい、しかしこの息が吐き終わったら一度だけ、たった一度だけでいい、胸いっぱいに空気を吸わせてください。


肺に入っていた空気が出切る、その瞬間、俺はTシャツを持ち上げ顔を埋めた。



スウウウウウウウゥッゥゥゥゥ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る