叶え!俺の夢――。
「それ。堀さんが言ってたやつかもしれません。末松さんも言うなら見てみようかな。それは男の子じゃなくても面白いものなんですか?」
「もちろんです!このアニメの音ゲーもあるんですが、むしろ音ゲーのほうが先だったんですが、電車でこれやってる女の子見たことあります!」
呂律が回る回る。さっきの『でしゅ』事件が他の世界の話のようだ。
もしかしたらアニメの話をさせたら俺は世界一流暢に喋る人間なのではないだろうかというくらい言葉が出てくる。
「魔力が……溢れ出してくる!!!」
とは言わなかったが、簡単に言えばそんな感じだ。
女の子に対して自分がこんなに話すことが出来るなんて正直すごくびっくりしている。
もしかしたら俺はアニメの主人公なのでは、と思ったがそんなことはなかった。
「今やってるのは二つ目なんですか?一つめ見ないと話は繋がらない感じですよね。私レンタルビデオ店でアルバイトしているので次行った時一つ目借りてみますね」
「是非そうしてみてください。絶対面白いことをこの末松が保障いたします!」
もし彼女が俺の宿主になってくれたならば多分きっと毎日が楽しく幸せな日々になるのだろう。しかし
『最終回一緒に見させて頂いてもよろしいですか』
このひと言が出せない。多分リア充な人なら冗談っぽくサラッと言えてしまうのかもしれない。けれど末松にはあまりにも高いハードルだった。
友達が少なかったのもこの最後の一歩を踏み出すことが出来なかったからだ。
それに女の子に対して、自分のためにアニメ見てくれとは俺は絶対に言えない。
「末松さん、コップ触れなかったですけれどテレビ付けること出来るんですか?うちで見ますか?」
まさかのまさか。
いきなりの提案で頭の中が真っ白になった。
目頭が熱くなってきた気がする。
人の思いをこんなに受け取ったことは今までの人生で無かったかもしれない。(両親は除く)
人の温かさを感じたことは今までの人生で無かったかもしれない。(両親は除く)
そして他人にここまで出来る人を今までの人生で知らなかったかもしれない。(両親はry)
彼女はどうしますかという表情で俺を見ているがその顔を見返すことも出来ないくらい俺は感極まっていた。
ここで泣いたら男じゃない。という問題より
この人どんだけアニメ見たかったんだろうと彼女に思われるのは嫌だ。
俺は昇天するまで彼女の命を救ったヒーローでいたい。
もしかしたら別に彼女にとって俺はヒーローではないのかもしれないが、俺は自分をヒーローだと思っているのでそれでいいとしよう。
そして俺は搾り出した声でこう言う。
「ヒグッ、ほ、ほんとうですか、ヒグッ。迷惑じゃ、ヒッグ、なけれ、ヒグッ、ば、お、おねがいっ、ヒグッ、したい、ヒグッ、です。ヒッグ」
◇
彼女の寛大な心で俺はついに日曜日に再降臨した理由のアニメを見ることができそうだ。しかしまだ水曜日。頭の回転が速い人は察しがついているかもしれないが、そう、日曜までは五日ある。
涙を拭きながら俺は必死に考えた。いや、泣いてたわけではないですよ。ちょっと目にね、ゴミがね。
五日間、話題は持つだろうか。俺の話せる話題と言えば……アニメとアニメとアニメくらいか。
ふむ。これは……
いける!!!
なにを隠そう、俺はアニメの話しをさせれば天下無双。孔子もびっくりするくらいの冗舌家だ。
そんな俺ならばたぶん大丈夫だろう。
どこからかわからない自信を胸に俺は決意を固める。
「末松さんはご飯食べられますか。」
女の子が作ってくれるご飯が食べれないなんて生きてる価値もない。ゴミくずだ。むしろゴミくずに失礼だろう。
「たぶん、箸が持てないので食べれないかと」
ああ。なんてことだ。母さん以外の女性にご飯を作って頂ける人生たった一度のチャンスだったかもしれないのに。
ここまで悔しいと思ったことは生涯一度も無かった。高校受験で第一志望に落ちた時も、大学受験で第一、第二、第三志望に落ちた時もここまで悔しくなかった。
「ではちょっとご飯買ってきますね。玄関は閉めていきますね。」
「あ、はい。わかりました。待ってます」
あ、うん。そうなるよね。事故にあった当日は買ってきちゃうよね。
俺はいつもインスタント麺だったですけれど。
彼女は鍵を閉めて出ていった。俺はそそくさと彼女の衣服に顔を近づけてクンカ、クンカしようと思ったが彼女が俺の我が
けれど少しだけ、ほんの少しだけなら許されるかもしれない。
男であるが故に逃れられない本能と俺は戦った。
俺の頭の中では運命アニメの女性騎士王もおののく位の激しい戦闘が行われている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
使い魔槍(理性)「てめぇ、どこの英雄だ?二刀使いの魔術師など聞いたことねぇぞ」
俺「そういう君はわかりやすいな。これほどの槍使いは世界にただ一人!!」
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「帰りました。ただいまです」
俺が妄想に浸っているうちに彼女が帰ってきてしまった。
まぁいいだろう。あと五日はある。またチャンスはあるだろう。
彼女が買ってきたのはコンビニのお弁当だ。
俺が鍋を持つことが出来たのならば自慢のインスタント麺を作ってあげられるのに。
「ごめんなさい。ご飯食べちゃいますね。」
彼女はその小さいお口で唐揚げを食べ始める。ああ、可愛い癒される。こんな幸せでいいのだろうか。新婚というものはこんな幸せを享受してるかと思うと甚だ腹が立つ。
そして彼女はふと気づいたように言う。
「あ、ごめんなさい。末松さんもお疲れですよね。私はもう大丈夫です。今日はほんとにありがとうございました。救ってくれた人が末松さんのような優しい方で本当によかったです。日曜日お待ちしてますね」
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