ものはすり抜けることが出来るが人の心を覗き込むことはできない。
「せっかく幽霊さんになれたんですから末松さんは楽しまないとですね!」
気まずい空気になってしまったのを打ち破るかのように彼女は言った。
このテンションで楽しむのは仏陀でも無理なのではないだろうかとも思ったが彼女が空気を変えようとしてくれたので俺はニコッと笑い返す。
今までの自分に思うことは沢山ある。しかし思い悩んだところで俺が生き返るわけではない。彼女の言った通り楽しむしかないのだ。アニメを見なければならないのだ。
自分の物語をつくれなくなった以上、他の物語に没頭するしかない。
アニメを見るしかないのである。
大事なことだから二回言ったよ?
話はそれるが俺は高校時代に一つの真理にたどり着いていたのだ。
高校二年次の担任、高山先生は自身の授業である現国の時によく言った。
「今のところが大事なところだから2回目言うよ?」
これにクラスのみんなは必死にノートを写していたが、俺は気づいてしまった。
これは俺ら生徒にとって大事なことだから二回言うのか?
いや違う。これは高山先生にとって大事であるから彼は二回言うのだ。
複数回試行というのは主に自身に定着や、理解させるために行われることが多い。
例えば何か大事なときに
「俺はできる、俺はできる」
と繰り返すのも自分を出来るという暗示にかける為に複数回行う。
要するに複数回試行というのは自身にとって最も重要なことであるから反復して行うのだ。
ここで高山先生のケースに戻ってみよう。
高山先生が二回言うというのは彼にとって最も大切なことであると言うことは先程の説明で理解いただけただろう。
ここで高山先生における最も大事なこととはなんだろうという疑問にぶつかる。
先生にも上司がいる。彼らは何を見て高山先生を評価するのか。その要因の一つに生徒のテスト結果があるはず。生徒の点が悪いと教え方が悪いのでは?という発想になるのは高校生の俺にもわかるレベルだ。
結論として高山先生は
君たちのためだよ?
と言いながら自分の評価の為に二回言っていたのだ!
一つの真理にたどり着いた時には先生の二回目は終わっており授業後に非リアの友達に高山先生がなんて言っていたのか聞きに行ったのはいい思い出だ。
ただ、やはり一つの真理にたどり着いた達成感は何事にも変えが……
「末松……さん?大丈夫ですか?」
俺が変な回想に浸ってる間、顔が険しかったのか彼女はささやくように声をかけてくれた。
ものはすり抜けることが出来るが人の心を覗き込むことはできない。
「そうですね。せっかくこういう状態になったんですから悔いの無いようにして昇天してやりますよ」
一視で空元気だとどんな人でも見抜けるようなベタな言葉を俺は放つ。
「末松さんはなにか思い残したことがあったから幽霊さんになったんですか」
ふむ。ここで俺はスーパーコンピュータ並の速度で頭をフル回転させた。
まぁ間違いなく俺が再降臨した理由はあの女の子たちがアイドルを目指し奮闘するアニメを見る為なのだが、この事を正直に話して彼女は引かないだろうか。
正直幽霊がアニメ見るために幽霊になったという話を聞いたら俺はドン引きするだろう。
え~この人どんだけオタクなの。流石に引くわ。
となるのは避けたい。彼女は多分そういうタイプの人ではないが可能性はゼロではない。
ものはすり抜けることが出来るが人の心を覗き込むことはできない。
今うまいこと言ったよね。アニメだったらドヤ顔できるやつだなこれは。
というより幽霊は俺以外に存在しているのか?しているなら彼らはどんな理由で再降臨しているのだろうか。
その場所での強い怨念が地縛霊になる原因だということは聞いたことがある。
怨念が無ければ幽霊になることは無いのだろうか。
そんなことは無いだろう。
もしそうなれば幽霊はなかなかレアな存在になるはずである。
一時期社会問題になりつつあった道にモンスターが出てくるアプリ、---GOのレアなモンスターよりレアな存在になったら見るために大行列になってしまうではないか。
そう考えると怨念が無いけどなんとなく幽霊になっちゃう人もいるはずじゃね。
「いやぁ、よく分からないんですよね。深層心理?みたいなのはちょっと僕にもわからないですがなんかすごい思い残したようなことは見つからないですね」
これは完璧でしょ!
センター試験の現国の記述問題も三重丸で配点の倍くらいもらえるような回答でしょ。間違いない。
しかもなんとく、よくわからないというのはリア充感を出すのに効果的な言葉だ。彼女の目には俺が間違いなくリア充に写ってるに違いない。
「はぁ。そういうものなんですかね」
彼女は寂し悲しそうな顔をして言う。
えーーー!そういう反応なのぉ。
リア充への道のりは俺が思っているより険しかった
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