死人無職の英雄譚。
宿主を探さないといけない。
そこは間違いのない事実なのだ。
今日は火曜日。日曜までは五日しかない。
決して時間が大量にあるわけではない。
話しかけることも、ものに触れることもできないの俺は何か策を考えなければいけない。
そんな俺は今何をしてるかというと
公園のベンチ寝っ転がって日向ぼっこだった。
これがニートの生活なのか。
なんと素晴らしいことだろう。
都心の喧騒も満員電車も他の世界の話のような優雅な時間。
さながら上流貴族の気分になってくる。
もし万が一小学生の文集で
「僕の将来の夢はニートです!」
という子供がいたりしたらそれは直木賞クラスだろう。
むしろ国民栄誉賞を授けたい!君はこれからビッグになるよ。と思わず言ってしまいそうだ。
その歳で世界の真理に触れてしまうとは末恐ろしいことだ。
こんなことを考えていたところで宿主が見つかるはずも無く、しかたないので俺は立ち上がった。
◇
平日の真昼間だけあって、道にも主婦や大学生のような人しかいなかった。
「美少女降ってこないかなぁ」
晴れ時々美少女というラノベがあったら迷わず購入したい。むしろそんなラノベを書きたい。しかし残念ながら俺には文才が無かった。
ふらふら歩いていると
「!!!」
我が
昨晩は夜で暗かった為に気がつかなかったが彼女は黒髪サラサラロングヘアーが良く似合う「ふつくしい」女性だった。
もしラノベを書くことがあったら
自動車時々美少女
にしよう。うん。そうしよう。自動車が時々美少女になるという話だ。
昨今いろんなものが美少女化されることが多い。これは売れる!
我ながら素晴らしい話を考える。俺は。これは直木賞待ったなしだな。
自分の才能の恐ろしさを再実感した時、アニメ以外では起こり得ないようなことが起こっていた。
大型のトレーラーがまあまあ速い速度で爆走して俺の横を通り過ぎていった。
車の先の信号は赤。
交差点にはあの女性が歩いている。
そこまで認知した瞬間に俺は走り出していた。
面識があるわけではない。助けなきゃと思ったわけではない。
まず走ったところで何も触れない俺にどうすることも出来ないかもしれない。
ただなんだろう。今の俺は死んだことを後悔した。
だから後悔を残して死んでしまう人を見たくなかったのかもしれない。
彼女に後悔することがあるかはわからない。
とりあえず走り出していた。
走るのがたいして速くなかった俺が走ったところで間に合わないかもしれない。
でも走らなきゃ。走らなきゃ何も変わらない。今までも、これからも。
彼女はイヤホンで音楽を聞いている為まだ気がついていない。
全力で走る俺は体感では多分あの世界レコード持ちである電圧の単位の選手より速い。
百メートルを四秒で走りそうな勢いだ。
しかし彼女とトレーラーの距離は縮まるが俺とトレーラーの距離は離れていく。
彼女がふと横を見て絶望の表情を見せる。
ちくしょう。俺は何も変えられない。今も昔もただのクズ。そんなのはいやだ。
間に合わない。けれど、けれど。
俺は手を前に突き出した。
「とどけぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!」
その瞬間目の前が真っ白になった。
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