ビール片手にアニメって最高の時間だよね。

俺の家は東京の郊外、新宿から三十分ほどの場所にある。

終電車がなくなれば駅前の店も閉まり町はおやすみモードになるようなところなので、もちろん深夜二時だとコンビニと居酒屋ぐらいしか開いている店もない。


人通りも少なく宿主が見つかるとは到底思えないが久しぶりにぶらぶら深夜の散歩の気分で歩くことにした。


最近は就活に手いっぱいでこんな優雅に歩くようなこともなかったので新鮮な気がする。夏も迫ってきて夜でも暑くなってきた。二、三人とすれ違ったがほとんど人にも会わない。


こんな状態で宿主が探せるのか不安がよぎった。

いっそのこと壁が通り抜けられるのだから人の家に入り込んでアニメを見る人なのか確かめたほうが早いのではないだろうか。

しかしそれは俺の中の人としてのモラルが全力で拒んだ。

最低限どんな人間なのか確認してからおじゃまをする。侵入するのではなくおじゃまをする。


それが一番大事。


そんなことを考えているうちに男女二人組が前方に見えてきた





この世はリア充という悪魔に脅かされつつある。と、この前ラノベで読んだ。

人の皮を被った悪魔め。

お前らのせいで何千、何万という人間が苦しんでいるのだ。

生まれてこの方彼女なんぞいたことのない俺はここまで性格がひねくれている。

勿論好きな人がいたことはある。


小学生の時はあゆみちゃん、中学生の時はかえでちゃん、高校生の時はクラスのマドンナつかさちゃん、大学生の時は毎朝四号館ですれ違っていた名前も知らないあの子!


恋多き男だ。俺は。一回も片思いから発展したことはないが。

そんなことはどうでもいいのだ。


リア充は全部俺が駆逐してやる。


あ、なんかこのシチュエーションはアニメで見たことがあるような気がする。そして俺は重要なことに気が付いてしまった。


『俺って周りから認知されているのか?』


もし周りに認知されてないと駆逐ができない。

くそう、あんな啖呵を切っておいて触れもしませんでした、てへっ!

なんて洒落にならないではないか。

あのリア充共を俺が認知されているかの実験に使ってやろう。



「きゃ!怖いー」



とかなればいいのだ。楽しそうに話すリア充を恐怖のどん底に突き落としてやる。

ここから始まる、俺の反撃ターン!!!!!!


とりあえずどうしよう。

物に触れないから音が出せない。まさかの反撃ターンにならないパターン。

ずっと相手のターン!

とりあえず声でもかけてみようかな。でも、もし認知されていたら俺深夜に話しかけてくる変な人だ。しかし死んでいるし、まあいいか。



「あ、あの……」



静寂の中の刹那。

俺は反応を待った。リア充は話しを続けていた。


俺、認知されてねぇ。


悲報、朗報どっちなんだこれは。でもわかったことはある。女子風呂に入っても気づかれることはない。と、いうことは朗報!



「それで次の日曜最終回なんですよ!」



?!

リア充男が発した言葉に俺は反応した。



「今期最高の神アニメですから見てください!毎回感動!気か付いたら目から水が流れているのです!」



間違いない。

このリア充男、俺がこの腐った現世に再降臨した理由のアニメの話をしている。


救世主?!この男はあるじなのか。

ああ、見つけました。

あるじよ。


我、汝の手となり足となり汝を守る者也。


これで俺は安心して日曜を迎えられる。

アーメン。



「じゃあ、時間があったら見てみますね」



リア充女がそういったところで俺の次にするべき行動は決まっていた。

この我があるじ、リア充男についていく。そして日曜日、アニメを見る、そして俺は天に召される。


天に召されると考えた時点で少し気分は下がったがすでに死んでいるから気分が下がるもくそもないだろう。


そしてまた気づいたことがある。この二人恋人関係ではない。

さっきから敬語だし、君付け、さん付けで話している。


ハッ!ざまあ!


こいつらも俺と同族ではないか。しかし深夜三時になっても楽しそうに二人で話しをしているということは、数か月後には付き合っているかもしれない。ネットから得た情報から推測すると、今が一番楽しい時期というものかもしれない。


その結論に至ったところでまた俺の気分は下がった。そうかこの笑顔がリア充なのか。俺は今までの人生で彼らのような笑顔を何回したことがあるだろうか。もう少し生きてればこんな顔ができたかもな。そんなことを考えても後の祭りか。



「じゃあ、お疲れさまです。おやすみなさい」



そう言ってリア充二人は帰路について行った。男の家に着いて男はすぐに風呂に入っていった。

男の風呂を覗く趣味は残念ながら俺にはない。その間に男の部屋を物色することにしてみることにした。


男の基本情報は一人暮らし、テレビは大きい、部屋は俺の部屋よりもキレイ。たぶん非童貞(推測)。



「ふー、今日もつっかれたにゃー」



男はそう言いながらビール片手にテレビを付け始めた。今日この時間にやっているアニメはないはず……。

そして男はおもむろにDVD/BDプレイヤーの電源を入れ始めた。


まさかこ、こいつ……。録画派!?


アニメを見る人間には二パターンある。


リアルタイムで見て、主人公達と体験を共有したり、次回放送をネット上で推測しあったりし楽しさを分かち合う者。


自分の時間に合わせて見たり、ワンクールが終わった後にまとめてみるために録画をする者。


この両者は決してわかりあうことができない、まさに水と油の関係だ。この両者は何百年も闘いを続けている。

しかしワンクールが終わり、録画派が見終われば両者は良き友となる。

時には意見の相違に火花を散らし、時には感動を分かち合う。

それこそがアニメフレンズ、アニフレだ。


だが今はまだ録画派の時代ではない、要するに我があるじと我はわかり合えぬ存在なのだ。

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