天井のしみ

台湾の台南を旅していた時の話。

バックパッカーだったので、一泊の値段を日本円に換算して1000円ぐらいにおさめたかった。

その日は1100円ぐらいの個人経営のホテルを予約した。


12階建ての雑居ビルの一部だったが、外観は「地震がこない事をひたすら祈る」感じの建物だった。

そんなだから正直あまり期待していなかったが、入り口を入るとこざっぱりした受付があった。チョット安心して部屋まで行くと可愛いパッチワークのベッドカバーが目に入った。(案外あたりかもしれない。)


シャワー室を確認するとシャワー室は例にもれず「古典的」だった。シャワー室の中を歩くと何やらザラザラした感触があった。

(なんだろう?...まあ、流せばいっか。)

どこかから飛んでたらしい砂の事はあまり気にしない事にした。


それから台南の街を散策した。公園ではお年寄りがカラオケをしたり、将棋をしたりしていていつかの日本を見たような、何か懐かしいものを感じた。

クタクタになってホテルに戻り、シャワーもそこそこにベッドに横になった。

白っぽい天井が見えた。天井には黒いしみがある。

(あんな高い所になんでしみが?)

1日移動に費やし疲れた頭をフル回転して考えた。目を閉じて・・・

気だるくてなかなか寝られない。

目を開けると、しみは2つに増えている。

(増えてる?!)

寝ぼけているのかと思い直し、目をゴシゴシこすった。


3個になった!


これは緊急事態。嫌な予感しかしない。

慌てて電気をつけるとしみが動いた!


みると天井だけでなく床にも動く黒いしみが。

「ギャー」

これは日本にもいるアレだよね。アレ。


あまりに叫び声が大きかったのか、ドアがノックされた。開けると受付のおばさんが、害虫駆除スプレーを手に立っている。

(騒ぎがあれば害虫だってわかっとんのかいっ!どれだけ害虫がいるんじゃい!)


とりあえず受け取った。

そして勇敢にも電気をつけたまま敵を待った。効果音は「シーン」何分待っても何も現れなかった。

(よかった。見間違いかもしれないし。)


電気を消して、おやすみなさい。

でもなんか寝苦しい。

天井にしみが一個、二個、三個、四・・・

慌てて飛び起き電気をつけた。しみは退散した。

またもやスプレー片手に臨戦態勢。


また何も現れない。


電気を消して。

おやすみなさい。


カサカサ。


パチッ!


電気を消すと現れる。仕方ないから電気をつけたまま布団に潜りこんだ。

ねむけはどっかに飛んでいた。


今思いだしてみると、シャワー室にカサカサしていたのは天井のしみゴキブリのフンだったのだ。

納得したら寝られなくなった。


よく寝れず、次の日は青い顔をしていた。


ちなみに台湾のゴキブリは、日本のヤツの1.5倍の大きさで厚さが2倍ほど。動きは素早くなく、厚さ故につぶす人はまれで入ってきたら静かに出て行くのを待つ人も多い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る