前衛的なカプセルホテル

台湾を三周した。

その一部を、台湾人の友人と一緒にバックパックをしょって回った。


その時の話だ。友人は台北出身・台北在住だが自分の行動範囲が直径1キロくらいの、あまり外出をしない人だった。

そして私は國語(台湾の言葉)及び北京語が話せなかった。

そんな危ない二人がバックパッカーになった。

これまた「大丈夫か?」と首を傾げられそうな広域地図を持って旅に出た。


バスを乗り継いで3回、あたりはもう薄暗くなっていた。

行き先を聞かれて、友人は答えて「そこに着いたら教えてね。」

とバスの運転手さんに告げていた。

疲れがでたのか寝ってしまって、目が覚めるとほとんど乗客がいなくなっていた。

そして15分くらいすると運転手さんが何か言った。

友達が「次降りるよ。」と言った。


バスから降りてみると見渡す限り畑が広がっていた。

薄暗い中に麦のような植物の穂が揺れ、菜の花が咲き乱れていた。建物はほとんどなく、当然人らしき人も見当たらない。


「ここはどこ?」

二人して地図を広げてみると、目的地とは15キロくらい離れた似た目的地に似た地名の場所だった。

嫌な予感がしてバス停でバスの時刻を確認すると、さっき乗っていたのが終バスだった。

「宿なさそうだね。」

二人言って頷いた。

「店も人家も無いよね。」

サラサラと麦らしき植物の上を風が渡る音だけが響く。


途方に暮れて少し歩くと、ロープが張られている公園が目に入った。まだ完成したばかり、もしくは未完成なのでオープン前だった。

「公園ならベンチがあるかもね。」そんなことを話しながら入っていった。

公園には石のベンチがあった。

これで滞在はできる。

進んでいくと、端の方に白い大きな建物があった。


「真新しいトイレだ。」これもまた”立ち入り禁止”のロープが張られていた。


ロープをくぐって中に入ると、きれいなトイレだった。

まだ使われていない様子で、まるでトイレではないみたいだった。

ドアがあって個室なら安心だね!ということで、その日の泊りはカプセルホテルならぬトイレホテルとなった。


トイレホテル

定員1名

バスなし・トイレ付

素泊まり  0円

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る