第4話 Wake

 空は見知らぬ森の中で目を覚ました。体が重い。吐き気すらする。目の錯覚だろうか。目の前にはフワフワと何か光るものがいくつか浮いている。

 これまでの事を思い出してみる。不思議な男の話を聞き、奇妙な機械に入れられた。それ以上の事は詳しく思い出せない。

 取りあえず立ち上がろう。そう思って動こうとするが、体が思うように動かない。頑張ってようやく腕が持ち上がるかどうか、というところだ。

 ふと、昴流の事が頭をよぎった。彼はどこにいるんだろう。探そうと思っても、体はやはり動かない。何とはなしに自分の手を見ると……透けていた。もう何が何だか分からない。

 段々意識も遠のいて行った。自分はこのまま死ぬのだろうか。そんなことが頭をよぎった。しかし、物を考えるのも億劫おっくうになってきた。

 空はそのまま、眠りについた。


 空は洞窟のようなところで目を覚ました。不思議と体の不快感は消え去り、目の端には明るい炎が揺れているのが見える。その横には、見慣れた…いや、二度しかあったことはないが、今この状況では誰より安心をもたらしてくれる人物がいた。

「昴流…君…」

 その声を聞くと、昴流はチラと空を見やり、何やら布のようなものを空に投げ渡した。空はそれを受け取り、広げると。

「……服?って、え?」

 その時初めて、空は自分が一糸纏わぬ姿で布団のようなものを被せられていることに気付き…数羽の鳥が羽ばたいた。


「何も悲鳴あげることはないだろ」空が服を着終わると、昴流がぼやく。

「あー、ごめんごめん、ちょっとびっくりしちゃって……。昴流君に何かされ…」

「する訳無い」空の言葉を遮り、昴流は立ち上がり、洞窟の奥へと入って行く。

「じ、冗談だって!そんなにねないでよー」

 すると昴流は何やら大きな器のようなものを持って再び出てきた。

「…年上だからってあんまりガキ扱いするな…って思ったでしょ、今」

 空はクスリと笑って言う。

「いいから黙って食え」昴流はそう言って椀型の小さい器に大きな器からスープを注ぎ、空に手渡す。

「もう…やっと喋ったと思ったら全然可愛くないなぁ…あ、ありがと」

 空はスープ、さらに焚火で焼いた魚を食べ終えると、温かいコーヒーのカップを持ってきた昴流に礼を言うと、呼び止めた。

「あのさ…えっと、色々教えてくれないかな。その…私に何が起きたのか」

 そっぽを向いたまま聞いていた昴流は振り向く。

「…そうだな、あんたも“こっち”に来た以上、事情は知ってるべきだな」

 そう言い、自分のカップを持って空の傍に腰を下ろす。

「何から聞きたい?」

「あ…正直、私もう何が何だか分かってないから……並行世界って言われても全然ピンと来てないし」空は苦笑いする。

「だから、昴流君が必要だと思うことだけ話してよ。気になることは後で質問するから」

 昴流は少し考えると、口を開いた。

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