第3話 Ability
空たち3人がミッションルームに到着すると、そこには既に昴流と、空の知らない壮年の男性がいた。
「おはよう。やあ、君が空君だね。初めまして。私の事は、所長、長官、司令官…まあ、好きなように呼びたまえ」
空が挨拶を返そうとするが、男はそんな間は与えず、話を続けた。
「早速だが、この研究所について……」
「オジサン、私たちが知っていることは大体教えておきました。任務の事はオジサンのタイミングの悪さの所為で無理でしたけど」
美麗が皮肉っぽく口を挟む。オジサンでいいのか。凛人はこの言葉を聞くたび心の中で突っ込む。
「そうか。なら話が早い。」
男は気にせず部屋の明かりを落とすと、モニターに図を映しだした。
「並行世界。パラレルワールドという言葉は知っているだろう?それはね、実在するんだ。そして、それらは少しずつ混じり合っている。歴史や文化こそ違うが、人間が、言葉を操り、会話をしている。別の世界の日本では、日本語を話しているし、小説なんかでよくある、ドッペルゲンガーのようなものも存在する。そして、並行世界の出来事は、程度の差こそあれ我々の世界に影響を与えている」
男は話し続けるが、そのSFじみた話は段々と理解が難しくなってくる。
「当然逆も然りだ。たとえば、1945年の原爆投下、あれによってとある世界の一つの国が滅びた」
「そんな……実際に落とされたこの世界がそれぞれ一つの県程度で収まっているのに?」
「ああ。ものによるが、実際の世界よりも大きな被害を及ぼすこともあり得る……たとえるならば」
そう言って男は机上のスタンドライトをつけ、その下に一枚の黒い紙を置いた。
「この紙に光を当てたところで、何も起きないが、こうするとどうなる?」
男はライトと紙の間に虫眼鏡をかざした。すると、紙から煙が上がり出す。
「異世界との壁はこの虫眼鏡のようなものだ。もちろん、この世界との距離によって影響の大きさも違ってくる。任務について察してもらえたかな?」
空は頷いた。
「この世界に影響を及ぼすような異世界の現象を解決する…でも、どうやって?」
「君ら4人には、問題の世界へ渡ってもらう。詳しいことはその後で昴流に聞いてくれ」
空は昴流の方を向いた。昴流は相変わらず無表情なまま黒い紙から立ち昇る煙をぼーっと見ている。
「え、どうして昴流なんですか?」凛人が問う。
「昴流と空君には先発で行ってもらう。今までは3人だったから一度に世界を渡れたが、装置は3台しかない。美麗君が入るまでは昴流一人で行く以外仕方なかったが、出来れば1人で異世界へ渡るような事は避けたい。そこで、最も経験のある昴流と、日の浅い空君を組ませる。もしものことがあっても空君の能力が役立つだろうしな」
「私の…能力?」
「オジサン、その…お姉ちゃんの能力って…」
空に遠慮してか、美麗の声は尻すぼみになってしまう。
「あの…私の能力って、何なんですか?」
空は意を決したように男に訊く。
「……ああ、そういえば無自覚なんだったな。空君は2週間ほど前、10トントラックに轢かれ、瀕死の重体に陥った。しかし、数日で常態まで回復した。無論、最低限の治療はされてはいたが、通常有り得ない治癒の速さだ」
「それってつまり……治癒能力、ってことか」
凛人は空の方に目配せしながら男の発言をまとめる。男は頷く。
「その通りだ。空君がいれば、昴流や空君自身にもしものことがあっても対処できる。さて、悠長に長話はここまでだ。早速昴流と空君には世界を渡ってもらう」
そういうと男は机上のスイッチを押し、開いたドアへと向かう。
「え、今からですか?」
空は予想もしなかった言葉に耳を疑う。
「詳しい内容は美麗、凛人に伝える。2人は先に向こうに行ってオーヴを取り込み、拠点を作って待機していてくれ。後の2人は丁度48時間後にそちらへ送る」
「え、ちょっ……」
奥の部屋に進むと、怪しげな機械が3台置いてある。コールドスリープにでも使うような機械だ。昴流は躊躇うことなく左端の機械に横たわる。
「お姉ちゃん、大丈夫、心配しないで。あたしたちがすぐ行くし、それに……」
美麗は空の耳元で囁いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます