第4話 コスモワールド

 その数日後、私は紗英たちと横浜で遊んだ。

 メンバーは、紗英と彼氏、千佳と彼氏、そして私。彼氏と言っても、全員大学で同じクラスだから、友達のようなものだ。

 その五人……だったはずなのに、当日、私の面識のない男の子が一人混じっていた。


「初めまして。かしわはると言います」

 彼が挨拶してくれたから、私も挨拶をする。

 デニムのシャツに白のパーカー。どちらかと言えば小柄で、色が白く、栗色の髪にゆるいパーマがかかっている。

 千佳の彼氏の親友らしく、

「こいつ、すっげえ良いやつだから」

 と彼は紹介した。


 紗英と彼氏、千佳と彼氏が一緒に歩くから、私は自然と柏木君と歩くことになった。

 彼は確かに良い人で、私が気を遣わなくても済むように、ずっと話しかけてくれ、私を笑わせようとしてくれた。

 それで緊張がほぐれたし、彼に対して少し好意も持った。

 けれど、それ以上に、私は紗英たちの思惑をいぶかしく思った。

 二人は明らかに、私と柏木君をくっつけようとしている。

 私が出席しなかった誕生日会で、何が話し合われたのだろう? 二人は、私がカッちゃんに違和感を覚えていることに気づいているのだろうか?


   *


 中華街でランチを食べ、赤レンガ倉庫のアウトレットでウィンドウショッピングをしてから、山下公園を通って、コスモワールドに向かった。

 ジェットコースターに乗った後、コスモクロックと呼ばれる大観覧車に乗るとき、二人ずつ乗ることになった。私と柏木君がまたペアになる。


 密室で二人きりになると、やっぱり気まずかった。

 私は、柏木君とは目を合わせず、外の景色ばかり見ていた。すでに日は暮れかけていて、横浜港の上に夕闇が広がり始めている。

 ベイブリッジに照明がともった。

 そのとき、柏木君が私の隣にすっと移動して、

「手、つないでもいい?」

 と言った。

 断らなければいけない。

 けれど、断った後のさらなる気まずさを思った。

(手をつなぐくらい……)

「いいよ」

 と言った。

 柏木君は、指をからませる、いわゆる恋人つなぎをした。腕全体が自然と触れ合う。

 罪悪感で心がうずく。

 私は何をしているのだろう……。

 観覧車から降りた後も、柏木君はつないだ手を離さなかった。


   *


 コスモワールドを出た後、少し歩いて、夜景がよく見える臨港パークの階段に座った。

 いつの間にか、紗英たちとは離ればなれになっている。

「何か飲み物を買ってこようか」

 と柏木君が気を遣ってくれた。

「ううん。私はいらない。ありがとう」

 それから、少し沈黙が続いた。

 まわりは右を見ても左を見てもカップルだらけ。抱き合ったりキスをしたりしている。

 大きな電光時計でもあるコスモクロックが、時を刻んでいる。

 不意に、柏木君が私の背中に手を回して抱き寄せ、

「僕たちもキスしない?」

 と言った。

 目が熱っぽい。背中に置かれた指に、微妙な力がこもっている。

 私は雰囲気に飲まれていた。

(カッちゃんだって、どこで何をしているか分からないんだ……)

 それでも、うん、とは言わなかった。けれど、私の迷いは承認と伝わったかも知れない。

 柏木君が私を見つめて微笑み、顔を近づけてくる。唇があと一センチまで近づいたところで、

「ごめん!」

 と言って、私は彼の体を突き放した。

「本当にごめん。私、彼氏いるから!」

 柏木君は、呆気にとられた表情をして、それから、

「僕の方こそごめん」

 と言った。

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