高瀬麻里絵#3
翔太くんからの突然の告白。
びっくりはしたけれど、嫌じゃなかった。
すごく、すごく嬉しかった。
家に帰るとパパの部屋に直行した。
河村さんは少し前に帰ったところだ。
パパがいつものように私を見る。
「おかえり」
私を見ている、と思っていたけどパパの薄茶色の瞳は私と合うことはない。
もしかするともっと前からパパは私を見ていなかったのかもしれない。
私に笑顔を見せないパパ。
河村さんと談笑している声を何度か聞いたけれど、私が部屋に入ると顔から表情が消えてしまう。
ずっと前から気付いていたけど、気付かないふりをしていた。
今日、翔太くんに言われて自覚せざるを得なくなってしまった。
パパを手放せないのは、私の方だった。
私に大学に行くように言ったのはパパだった。
『麻里絵は頭もいいし、もっと世界を広げたほうがいい』
そんなふうに私に外に出るように言ったあと、必ずパパはこう付け加えた。
『俺のことはもういいから』
私はその言葉をパパの強がりだと思っていた。
でも本心だとしたら?
パパが本当に望んでいるのは『私の世界を広げること』じゃなくて『パパの世界から私がいなくなること』だったら?
「ねぇ、パパ」
「どうした、麻里絵」
私の声のトーンがいつもと違うことに気付いたのだろう。ようやくパパと目が合う。
「今日ね、クラスの男の子に告白されたの」
「……そうか」
「……それだけ?」
「いい奴なのか?」
「優しくて、誠実で、ふふ。昔飼ってた柴犬みたいに可愛いの」
「……そうか」
パパの口元に笑みが浮かぶ。
「ねぇ、パパ」
パパの目にうっすら涙が滲んでいる。
「私どうしたらいい?」
「麻里絵の人生だ。もうわかってるんだろう」
「でもパパが……」
「麻里絵!お互い別々の人生を進む時が来たんだよ」
パパの目尻から涙がこぼれ落ちる。気付けば私も同じように泣いていた。
「パパはこれからどうするの?」
「河村さんもいるし、細々となら生活していけるさ」
「河村さん?」
「ああ。俺は河村さんが好きだ。向こうも同じ気持ちだと言ってくれている。一緒に暮らしたいとまで言ってくれているんだ」
ショックだった。私だけ何も知らなかった。二人はとっくに想いを確かめ合っていたのだ。
「じゃあ私はもういらない?」
ようやく声を絞り出す。
「そうだ」
「そんな……」
「麻里絵にも俺は必要ないだろう」
もう、パパは、私を見ない。
しばらくの間をおいて、パパが最後に言った。
「今までありがとう。お金のことはきちんとするから」
私は涙を拭きながら言った。泣いたからか、なんだかやけに清々しい気持ちだ。
「こちらこそありがとう。……もう、離婚、してあげるね」
あぁ……、明日。明日、翔太くんに返事をしよう。
『私、うまくやっていけそうな気がする。あなたとなら』
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