二階堂翔太#4
あれから二週間、よっくんとの仲は未だにギクシャクしている。
同じ授業を取っていることも多く、ほぼ毎日会うけど必要最低限しか話さない。
今まで喧嘩をしたことはあっても一日や二日空ければ何事もなかったように笑いあえていたのに。喧嘩というより、今回はなんだかよっくんに避けられてる気がする。
ただ、あまりに長く膠着状態が続いているのでいよいよヤマケンがキレてしまった。
「もー、お前らなんなんだよ。いい加減仲直りしろよ!」
ヤマケンには僕たちの仲違いの理由を言っていない。よっくんも言わなかったようだ。
「よっくんに言えよ」
「だってよっくんなんか話しづらいんだよな~、最近」
「知らん!」
「じゃ、じゃあさ、気晴らしに合コン行かね?なんとかよっくんも誘ってみるからさ、話できるじゃん」
ヤマケンは上京して以来しょっちゅう合コンへ行っているようだ。
が、まだいい子と出会えていないらしい。
確かによっくんと二人きりで会ってまた高瀬さんの話になるのは避けたい。合コンみたいな大勢で話す場でなら仲直りできるかもしれないな。
翌日、ヤマケンが指定した居酒屋に向かうと既によっくんが一人で店の前にいた。
軽く挨拶を交わすと沈黙が訪れた。
「……ヤマケンにも気を使わせちゃったな」
意を決したようによっくんが口を開いた。
「だな」
この一言で二人の間の空気が変わったのがわかった。
「こないだのこと、悪かった。ちゃんと謝りたかったんだ」
「……うん」
更に口を開きかけた時、ヤマケンや他のメンバーがやってくるのが見えた。
「おー、早いな!」
総勢10人の合コンメンバーは同じ学科の同級生たちがほとんどだった。
隅の席に着くと、隣の女子にチョイチョイと袖を引っ張られた。
「よろしくね」
「あ、会田さん。よろしく」
そういえばヤマケンは会田さんが気になると言っていた。
幹事なだけあって最初から狙っている子の隣には座れなかったのだろう。
ヤマケンが僕の対角線上の隅の席からこちらの様子を伺っているのが見えた。
わかってるよ、お前のアピールはしておく。
アイコンタクトを送ると、ヤツは満足したように頷いた。
「二階堂くん……あ、翔太くんって呼んでもいい?」
「あ、うん。いいよ。会田さんは……」
「私は『ミヤコ』っていうの。漢字一文字で都。友達からはミヤちゃんとか呼ばれてるよ」
「いい名前だね」
会田さんが嬉しそうに笑う。初めて会った時に、今どきのアイドルみたいだ、と思ったけどやっぱり可愛らしい。いかにもヤマケンが好きになりそうなタイプだ。
「翔太くん、合コンに来るってことは……彼女いない、のかな?」
「まぁ、うん」
「そうなんだぁ!でもモテそう~」
「いやいや、僕なんて全然。ヤマケンってわかる?あいつの方がモテるんじゃないかなぁ」
無理矢理ヤマケンの名前を出す。実際僕ら三人の中ではよっくんがダントツでモテた。あとの二人は似たり寄ったりというところだろうか。
「山城くんかぁ。確かに明るくて面白そうな人だよね。でも私は……」
そこで言葉を切った都ちゃんをふと見ると、こちらを覗き込んでいた。
「翔太くん、いいと思うなぁ」
これは、いわゆる脈アリというやつのようだ。悪い気はしない。
でも……ふと高瀬さんの顔が頭に思い浮かんだ。
「ありがとう」
僕のそっけない返事に何かを感じ取ったようだ。都ちゃんは居心地が悪そうに座り直した。
「誰か気になる子でもいるの?」
「あー…うん、まぁ」
ふと視線を感じて斜め前を見るとよっくんがこちらを見ていた。
こちらの会話が聞こえていたのだろうか。
「えー、誰~?知ってる子かな?」
「……と思うよ」
「ということはクラスの子だ!でも今日は来てないみたいだね」
女子は鋭い。
「うん、まぁ」
「ねぇ、もしかしてだけど……麻里絵ちゃんだったりする?」
「麻里絵ちゃん?」
「高瀬麻里絵ちゃん」
「は?え?なんで?」
わかりやすく取り乱してしまった。どうしてわかってしまったんだろう。
「あー、やっぱり」
「やっぱりって?」
「麻里絵ちゃん大人っぽくてキレイだもんね」
そこで都ちゃんは声のトーンを落とした。
「実は、年上なんだって」
「……みたいだね」
「なぁんだ、知ってたんだ」
残念そうに言う。もしかして年上だということで僕が高瀬さんに幻滅すると思ったんだろうか。だとすると……都ちゃんは見かけどおりのただ明るくて優しい子というわけではなさそうだ。
ちらっとよっくんを見ると、俯いて申し訳なさそうな顔をしている。
そうか、よっくんの情報源は都ちゃんだったのかもしれない。
「じゃあ今度麻里絵ちゃんも一緒に遊びに行こうよ。翔太くんの友達も入れて四人でさ」
「あ……うん、いいよ」
さっきの会話以来、都ちゃんには警戒心しかない。それでも高瀬さんと学校外で会えるという可能性がどうしても手放せなかった。こちらはヤマケンを連れていけば都ちゃんとべったり行動してくれるに違いない。
もう少し高瀬さんのことをよく知りたい。他人からではなく本人から。
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