第13話 イッツモーフィンタイム2
おぉ……
これは……眼福。
端的に言えば、そこにいたのはメイドさんだった。
これでもかというぐらいに、たくさんのフリルがついた黒のエプロンドレス。頭にはこれまたヒラヒラしたものがついた白いカチューシャがついている。ここまでは、まだ普通だろう。
スカート丈は短く、ニーハイとの間からは全く日に焼けていない白くてむちむちした太ももが覗いている。絶対領域っていうやつだ。
さらに、白いエプロンの上部にある編み上げのコルセットの上には、美味しそうなメロンが二つ……じゃなくて、大きな胸が乗っかっている。襟元からは深い谷間まで見えていた。
ん?
このサイズ。あの張り感。
俺、これを知っている気がする。
ここでようやく、メイドさんの顔を真剣に拝んだ。ゆるく編まれたおさげ髪。長い前髪は横に流されて、きれいなおでこが見えている。その時、その下にある瞳がギラリと光った。
既視感。
あ、もしかして、
「ノリ子?」
ポカンとする俺。こちらを睨んではいるが、ややモジモジして顔を赤らめているノリ子。そっか。いつもは前髪で隠れているけれど、そう言えばこういう顔をしていた気がする。これまで授業中の横顔とか、体育の時に揺れてるおっぱいとかしか見てこなかったから、こうやって正面から顔をしっかりと見るのは初めてなのだ。化粧もしているのか、可愛らしさの中にもどこか背徳感に襲われるような色気が漂っている。
ドキドキ、する。
ノリ子が少し肩をすくめると、胸の谷間はさらに深くなった。キメの細かい、柔らかそうな肌。それを見ていたら、だんだん腹が立ってきた。
俺と二人の秘密って言ってたのに!
俺の手を取って無理やり触らせて、ついでに揉ませてもらって、誰にも言わないって言ってたのに。なんで、こんなところで皆に晒してんだよ?!
あれは、『俺の』だったのに。
気づいたら、着ていた執事ジャケットを脱いで、ノリ子の肩に被せていた。
本当は「似合ってるよ」とか「可愛いね」って言えば良かったのだろう。実際にそうなのだから。でも口から出てきた言葉はコレだった。
「コミュ障が色仕掛けで客引きなんかできんの?」
周囲のざわめきが止まった。皆、俺の方を見てる。
俺は、元々こういうキャラじゃない。普段はめったに怒らないし、目立つのも嫌い。自分でも、なんでこんなこと言ってしまったのか分からないぐらいだ。
気まずい空気が流れる。ノリ子は、俺のジャケットで胸元を隠して俯いていた。
「一ノ瀬くん? もしかして、私のコーディネートに文句ありまして?」
ふと見ると、魔女が隣に立っていた。
「私、五反田さんから頼まれましたの。無茶祭で女っぷりを上げたいから手伝ってほしいとね! これまで何しても重い腰をあげなかった彼女がやっとやる気になったのよ? ついつい本気を出してしまいましたわ!」
「え……ノリ子に嫌がらせしたんじゃなくて?」
うっかり本音で尋ねてしまった。魔女は気分を害したのか、ふんっと鼻を鳴らした。
「一ノ瀬くんまで勘違いしていたの? 恋人に対して失礼だと思わないの?」
「いや、付き合ってないから」
「もう、相変わらず恥ずかしがり屋さんなんだから! あのね、五反田さんって素敵な女性でしょ? なのに、いつも身だしなみがなっていないから、私イライラしていたの。だって、勿体無いじゃない? それを話したら五反田さんがね「私に気合を入れて!」って言うものだから、「何したらいいかしら?」と尋ねたわ。そうしたら「全身泥パックコースでお願いします」ですって! 私も随分悩んだのよ? でもアレのお陰で、五反田さんは何かに吹っ切れたみたい。この無茶祭からは女の子として磨きをかけようと決意したみたいよ? プロデュースした私の手腕はいかがかしら? ね? 彼女、素敵でしょ?」
はい。素敵すぎて涙出そうです。てか、泣いてもいいですか?
まさか、魔女はイジメていたわけではなく、単にノリ子を応援していただけだったなんて……。これまで悩んで苦しんでいた俺の時間を返せ!!
健司や恵介ともいろいろ作戦を練っていたのに、全て無駄になってしまった。と言っても、恵介の傑作、つまり超絶不味いドリンクを魔女に飲ませて、「イジメをする奴なんて大嫌い」と宣言を行うという単純なものだけれど。
「一ノ瀬くん、そろそろ私を認めてくれてもいいんじゃないかしら?」
魔女の手が力なく垂れ下がる俺の腕に絡みつく。魔女は、あくまで俺に対する自分の株を上げようと必死な様子だが、方向性があさってに向いていて、なかなか理解が追いつかない。慈善事業でもしたつもりなのだろうか。
魔女の告白には他の人達も驚いた様子だ。しきりに隣の友達と囁き合ったりしている。
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