第10話 ケミカルリアクション2
デジャヴ。
場所はもちろん屋上だ。先日よりも時間は遅いため、陽はかなり傾いている。ヒグラシの物悲しい音色が裏手にある雑木林から響いていた。この趣を味わえるのも後僅か。季節は秋になるんだなと物思いにふけっていたのだが。
「一ノ瀬くん、分かってるわよね?」
何でこう委員長はいつも言葉が足りないのだろう。
「何のこと?」
お陰で俺の台詞がワンパターン化してしまう。
「今日は後ろの二人も話に入りなさい!」
相変わらず尾行が下手な健司と恵介が、タンクの背後から姿を見せた。
「私がなぜ二宮くんの提案を受け入れたと思う? もちろん魔女掃討作戦のためよ!」
「委員長、そんな大声出したら校庭に響いちゃいますよ?!」
「じゃぁ、二宮くんが女声を出して叫んでいたことにしておきなさい」
「んな、無茶なぁ」
「だって、ここ無茶高だもの」
いや、委員長が無茶振りを好きなだけだろう。果たして今から告げられるのはどんな無茶なのだろうか。
「さて! 早速作戦会議をしましょう!」
今回は決定事項の宣告だけではないらしい。俺達の意見も聞いてくれるようだ。
委員長はこう見えて面倒見がいい。偉そうなところも、人をまとめる上では大切なことなのだろう。実際、これぐらいの押しの強さで仕切ってくれないと、クラスは立ち行かないだろうし、俺も魔女対策なんて真面目に考えることはなかったと思う。だから、感謝しなきゃな。
「委員長、いろいろ考えてくれてありがと」
「……い、一ノ瀬くん……」
あれ? この雰囲気、つい先日も見たような。
「私、一ノ瀬くんにぴったりの衣装、考えておくからね!」
は?
目が点になった男子三名を取り残し、真っ赤な顔面を両手で覆って走り去った委員長。屋上出入口の鉄扉がバタンと勢いよく閉ざされて、静寂が訪れた。
「衣装、白衣ぐらいで済んだらいいな」
俺は恵介の方を見やった。彼は今日も白衣である。もはや、校内でこの姿を突っ込む人は誰一人いなくなった。
「あの委員長のことだ。楽観視するのは自殺行為だろ」
「要、ご愁傷さま」
助けてくれないのか、友よ。
作戦会議は始まりもしないうちから終了。仕方ないので俺達だけでしゃべろうかと、化学準備室(いつもの溜まり場)へ向かった。
化学準備室は無人で、鍵もかかっていなかった。不用心なものだが、こちらとしてはやりやすい。恵介はまるで自宅かのように慣れた仕草で冷蔵庫を開けていた。中には、リンゴジュースなどの他に、ケチャップやオイスターソース、ワインビネガーなどの各種調味料も並んでいる。こんなところで誰が使うのだ。いや、犯人は分かっているのだけれど。混ぜるな危険。
「要、ノリ子今日もちゃんと登校してたな」
「そうだな」
健司がこちらにルーズリーフを一枚差し出してきた。ノリ子はあんなことがあったにも関わらず、一日も休むことなく学校に出てきている。様子も以前と変わらない。一方、魔女の動向も掴めないでいる。
「何これ?」
俺は健司からルーズリーフを受け取った。几帳面な感じの小さな文字がずらずら並んでいる。以前の俺ならば、この時点で活字アレルギーを発症するところだ。でも、れいの小説のお陰か、すぐに読み始めることができた。
「これ、どうしたの?」
「要が知りたそうなこと、集めてみただけ」
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