第8話 僕、混乱しそう2


「もしかしてお姉ちゃん?」

 へっ? 姐さん がリタさんに対して“お姉ちゃん”とつぶやいた。何が何やらさっぱり分からない。

「そうよ、よく分かったわね」

 認めた! リタさんが、姐さんのお姉さんだと。

「だって、ママの写真の顔にそっくりなんだもん、さっきダリンからリタっていう名前を聞いて、どっかで聞いた事があると思ってずっと考えてた。思い出したのよ、ママが残してくれた手紙に書いてあったって」

 そっか、さっき姐さんがダリンさんのところで、リタ、リタとつぶやきながら座り込んでしまったのは気落ちしたからじゃなかったんだ。心当たりがあったから、考え込んでいたんだ。

 お母さんの手紙には、あなたにはリタという二十歳離れた姉がいると書かれていたらしい。


 姐さんを見ると、大粒の涙をポロ ポロとこぼしている。状況が把握しきれないけれど感動の再開が始まったようだ……と思ったら、姐さんがリタさんの方にかけて行って投げ飛ばした。

 けれどリタさんは魔法を使って、投げられて一回転したところで空中で動きを止めた。

 良かった、怪我をしなかったようだ。僕は自分が投げられて頭を打った時の事を思い出した。

「バカ! 何で何十年も名乗ってくれなかったのよ。傍にいたくせに」

 怒りながら、まだ涙をポロポロ落としている。


 姐さんの言葉に少し困ったような表情を混ぜながらも、やっぱり優しい笑顔でリタさんは話し始めた。



 リタさんは二十数年前、姐さんと同じようにお父さんから弟子の一人と結婚して道場を継いでほしいと言われた。

 けれどそ れをリタさんは断った。理由は結婚したい男性が居たから。それでも諦めなかったお父さんに、どうしても認めてほしくて子どもを作ったのだ。

 それを知ったお父さんは、認めるどころかリタさんを勘当した。

 それならばと、リタさんは家を出て男性と駆け落ちをした。とはいうものの、リタさんも夫となった男性も親を完全に捨てきる事が出来なかった。

 家を出たものの、両家の親には見つからないように隣町に暮らしていた。

 そして今から二十五年前、カラダで疫病が流行した。リタさんも夫も、それからリタさんと姐さんのお母さんも病に罹ってしまった。

 その疫病で、夫とお母さんは亡くなった。リタさんは三年もの長い間病に伏していたが奇跡的に命を取り留めた。


「その事 、パパは知っているの?」

「知らないわ。私がずっと傍にいたことも、私の夫が疫病で亡くなった事も」

 またもや姐さんは足早にリタさんに近づいた。そして手を取って今度は投げ飛ばしはしないで引っ張って何処かへ行こうとした。

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