裏社会への第四歩

ひらり、ひらりと白い修道服のスカートが翻るたびにガキン!ガキン!と剣戟が走る。


突然現れたその人は冒険者が繰り出す剣戟を当たり前のように受け止め、隙あれば切り返している。

意識が朦朧としても逃げるつもりでいたのにその人の剣戟に見惚れていた。


ギィン!


剣と剣がつばぜり合いカチカチとこすれる音がする。


「おい、アマァ!なんであのガキをかばいやがんだ、あのガキは生きる意味もねぇクソ野郎だぜ?」


嘲るようにハッと鼻笑いする冒険者に顔の見えない後ろ姿の女性はぽつりと、だけれどはっきりと。

まるで黒の底からひたひたと這い上がってくるような恐ろしい声で言った。


「生きる意味がないっていいました?」


聞いているだけでもゾッとするような声。

こちらから見える冒険者の顔は青くなっていっていた。


「今、生きる意味がないと言いましたね。言ったな?」


低く、地を這う声に冒険者は飛び退いた。


女性は剣を下ろし息を吸う。


「貴方が!この子にパンを盗まれたのは見ていた!それは許されざることと思う!だが!貴方はこの子が生きる意味が無いからと思うとはいえ、なぜあそこまで痛めつけなければならない!私にとって貴方は赤の他人だ、口を出すなとも言いたいだろう!だが、私には私の正義がある!子供には何があろうと生きる意味は絶対に無くならない!子供は宝であり先への希望だ!たとえそれがどんな環境でも!死んでいい事に理由はない!それとも何だ!貴方はたかだかパン1つで怒るような小さな御仁か!」


彼女の言葉にギリギリと歯ぎしりをして悔しそうな顔をする冒険者。


とても長い時間、ホントは短かったのかもしれないけれどチッと冒険者が舌打ちをして剣をしまった。


女性も剣をしまい。一息をつくのがわかった。


ばっと女性がこちらを向いた。


「大丈夫?!生きてますか?!早く手当を!」


近づきその白い服で額を抑えられ、体を持ち上げられる。


「きっと、治しますから。」


そう言われ霞む視界に見えたのは、とても綺麗な金の髪に震える真っ青な瞳。


_____ずっと前に教会で見た神様だ…。


僕は確かに、遠くなる意識の中そうはっきりと考えたのだった。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る