第2話あつい友情と見えざる敵意
「やめとけって言ってんだろ! …!?(あの栞はまさか…)」
「ーレイナ・フィーマン、僕に力を。」
ティムの制止など構うことなく、レヴォルはワイルドの栞を構え、自らの書にそれを挟んだ。
コネクトを開始し、レヴォルは光に包まれていくー
「…先生、あれ不味くねえか」
「まさかあの栞を密かにくすねていたとはね… 普通のヒーローには破れない檻も、“調律の巫女”の力を以てすればそれが可能かもしれない…」
ーレヴォルの意識内ー
「すまない…、またあなたの力を借りることになって」
「良いのよ、あなたたちのおかげで大切な人とまた一緒になれたんだから。」
「それよりも… あなた身体の方は大丈夫なの?」
「…ああ、仲間を助けるためなら、このくらいどうってことないさ」
「(無茶する所、やっぱりエクスに似てるわね…)ええ、そうね。なら…もう一仕事、行くわよ!」
「ああ、頼む!」
やっぱりか、と言わんばかりにティムは深いため息をつく。嫌な予感が的中してしまったのだろう、光の中から現れたのは“調律の巫女”。
ポンコツと呼ぶには恐れ多いほどの異彩を放つ、創造主と同等にまで成長した姿のレイナ・フィーマンだ。
「あの子がこんな姿に… なんてことなの」
一瞬だけティムとパーンの方に視線をやったが、すぐに意識を檻の方に切り替える。
レイナからも彼らに何か訴えたかったが、レヴォルの負担を考えると悠長なことをしている暇はないと感じたのだろう。
二人も巫女に出てこられてはお手上げだと察知したのか、巫女がこれからやろうとする事をただ眺めるしか出来なかった。
目を閉じ、深呼吸をする。レイナの口から言の葉が紡がれていくー
「新たな運命を初めましょう… 覚悟なさい!」
凄まじいオーラを纏うと、レイナの指先から激しい光線が放たれる。必殺技の「コスモ・メルヒェン」だ。
光線が直撃し程なくして檻は破られ、アリシアの手によってエレナは救い出された。
コネクトをほどくと、レヴォルは安堵の表情を司った。
「待ちたまえ!」
「今のおチビを連れてっても、また“モリガン”に… うっ」
「エレナを連れて行くなというのなら、今度は僕が相手になるぞ」
「…ちっ、そんな体力お互い残ってねーだろ、馬鹿が」
敵対する者にすら見せたことのないような表情で睨み付けるレヴォルに、二人はこれ以上かける言葉は見つからなかった。
「…もう学院には戻りません、さようなら」
アリシアもまた今まで見せたこともないような冷めた眼差しで二人を見つめ、その場をあとにした。
「アリシア、手をかそう」
「ええ、お願い」
このあと、ティムとパーンに後悔の念が押し寄せたのは語る間でもないだろう。なぜ、自分たちはこんなことをしてしまったのか。
檻なんかに無理矢理連れ込まずとも、もっとほかに方法があったのではないか。
ーあれ、そもそもこんな檻、どうやって用意したんだっけ?
呆然と立ち尽くす二人をよそに、一連の出来事をそっと見守る少女がいた。
彼女の名はルイーサ。かつてヘカテーという名で呼ばれていたこともある、ティムの実の妹だ。
一連の出来事にも不干渉を貫いていたのは、プロメテウスがいなくなって身を寄せる場所がなくなったために、仕方なく空白の書の持ち主が集う学園にお世話になる(ティムのことはまだ許してない)という立場を取っているためである。
「(兄たちの様子、やっぱりおかしかったよね… あんなものまで持ち出して。ま、あいつらがバラバラになっても私には関係ないけど。でも…)」
「(女神さまに、後で相談してみようかな)」
ルイーサなりに、彼らに歩み寄ろうと努力しているのだろう。先ほど覚えた違和感も気になる。
「クラウス、今ごろ天国で仲間たちと仲良くやってるのかな…」
一方、学院をあとにしたレヴォルたちは
「エレナ… 無事で良かった…」
「私たち、いつまでもあなたの味方だからね」
レヴォルとアリシアに支えられているのは白髪混じりに紅の瞳を宿した、“災厄の魔女”の面影を残すエレナだ。
「ねえ、お願いがあるの」
「どうした?何でも言ってくれ」
するとエレナは涙ぐみながらこう続けた。
「もう… いいよ… 私を置いてって…」
「私がいなくなれば、全て丸く収まるんでしょ…?」
「それは絶対に違う、エレナ。」
頼もしい声色で、エレナの手を握りしめながらレヴォルは答えきった。
アリシアも、
「ええ、その通りよ。例えあなたが“モリガン”だったとしても、あなたは替えようのない大切な“仲間”。」
「あなたが元気になれるように私達がそばについているから…ね?」
友を気遣う慈愛に満ちた表情でエレナに語りかけた。
「有り難う…! 二人とも大好き…!」
「ウフフ、やっぱりエレナちゃんは笑顔がいちばんよ!」
溢れる涙を流しながらも、エレナは満面の笑みをたたえながら二人抱き締めた。
こうして、新たに三人体制で“再編の魔女”一行は再出発をしたのだった。
“見えざる敵意”によってかつての仲間との絆を引き裂かれたとも知らずに…
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