前略、灰色青春探偵様【連作ミステリィ・三流探偵シリーズ】

第4話 四人の証言（ver2.0）

　俺は証言を集める前に茜色学院の体育館へと足を向けた。

　話を聞く前に体育館の構造が確認しておかなければ、思い違いをしてしまう可能性があると考えたからだ。

　茜色学院の体育館は高等部なり中等部なりのいずれかの全校生徒が入ろうと思えば入れるだけの広さがあるアリーナが特徴的だ。

　二三の部活がそこで練習などを行えるようにそれだけの広さを確保しているのだとか。

　当然ステージがある。

　ステージの広さもそれなりにあり、演劇部が舞台を公演したりする事も考慮された広さと舞台袖、舞台装置、ステージ、アリーナから見えない位置に放送室まである。

　それ以外には、二階には観覧席があり、体育館で大会が開かれている時などには、そこから観戦することが可能となっている。

「……アリーナからステージにいる人間に卵を投げつける事は不可能じゃないか？　野球をやっているとかそんな奴じゃないと厳しいな」

　なら、犯人はどうやって、生卵をぶつけたというのだろうか。

　それは四人の証言を聞けば分かるのだろうか。

■証言その１

高梨直弥（たかなし　なおや）

※生徒会の一員として入場整理を担当。体育館の出入り口付近に立っていた。

　ああ、あんたが噂の探偵か。

　俺に話があるって事らしいが、何か事件なのか？

　え？　始業式の事を訊きたい？

　ああ、あの事件か。

　生徒会の一員として、体育館の一番後ろにいて、全体を後ろから見ていたからな、それで俺に話を聞きに来たってところなのか。

　うんうん、俺に声をかけてくるとは、あんたやっぱり探偵だな。頭が切れる。

　事件があった時、何があったのかを見たか？　と。

　俺が見たのは、檀上に上がっていて話をしていたおっさんに生卵がぶつけられたくらいなんだよな。

　で、卵をぶつけられた後、教員とかがバタバタと檀上に上がったりして、ホント、大騒動になったよな。

　犯人捜しまでやりだすし、ホント、大変だったよ。

　まあ、あのおっさんが若気の至りだから私は気にしてない、とか心の広いことを言ってくれたから不問に付されたけど、あれは誰がやったんだろうな。

　誰が投げたのかは分かったのかって？

　犯人はまだ見つかっていないはずだ。

　未だに誰がやったのか分かっていないから、俗に言う『迷宮入り』するじゃないか、あの生卵事件は。

　何？　生卵が投げつけられた時、気になる事はなかったかって？

　ある事はある。

　俺は体育館の一番後ろにいて、全体を見ていたはずなんだが、オーバースローで投げていたとしたら、手を挙げたようになるはずなんだが、誰も手を挙げていなかったはずなんだよ。

　だからな、俺は推理したんだ。アンダースローで卵を投げつけたんじゃないかと。

　そうすれば、手を挙げたようには見えないだろ？

　な？　俺の推理は凄いだろ？

　ま、あの事件を解決するんなら、参考にしてくれよ。

■証言その２

依田美智代（よだ　みちよ）

※生徒会の一員で、二階の観客席にいて照明を担当

　え？　何よ、突然。

　あなた、探偵って言われている人でしょ？

　あなたに話す事なんて何もないわよ。関わり合いになんてなりたくないもの。

　だから、話す事なんて何も……始業式の事を訊きたいだけ？

　あの事件の犯人を捜しているの？

　私が疑われたし、あの件だったら特別に協力してあげてもいいわよ。

　うんざりしていたのよ、二階の観客席から投げたんだろうって疑われたりして。

　あれでしょ？

　私が二階の観客席にいて、ステージに照明を当てていたりしたから何か見ていないかと気になったって事よね？

　誰かが卵を投げたりしていたら、当然その周囲の人たちが勘づいて声を上げるはずでしょ？

　　事件が起こった時、上から見下ろしていたけど、誰も騒いでいなかったのよね、投げたであろう人の周辺とかが。

　体育館に並んでいた全校生徒のうちの誰かが投げたとは思えないのよね。

　それとも、何者かが誰にも勘づかれずに卵を投げつけたっていうミステリーかしらね？

　ねえ、探偵、今の話が謎を解くカギになるの？

　やっぱり教えられない？

　そうよね。犯人が分かったら、教えてほしいものね。ずっと気になっているから。

■証言その３

錦屋いなり

※一生徒として始業式に出席していて、体育館にいた

　探偵さん、おはようございます。

　こんな朝早くに参拝なのです？　何かの願掛けなのです？

　私は日課をこなしているだけなのです。

　はい？　話を聞かせて欲しいのです？　あの通り魔事件の事？

　あれれ？　違うのです？

　始業式で尼子宗大さんに生卵がぶつけられた事件……ですか？

　残念ながら、私は何も知らないのです。

　とある人から証言を取ってくるように言われたので来たのですか。

　ふ～ん、私が疑問に思っていた事があったので、もしかしたらそれの事なのです？

　卵が先か、殻が先か、なのです。

　どういう意味か、ですか？

　尼子宗大さんに生卵が当たった後、殻がステージの床に落ちたように見えたのです。

　卵のままぶつけられていたら、そんな事にはならないはずなのです。

　これって私の勘違いなのか、見間違いなのです？　それとも、そういうものなのです？

　探偵さんなら、分かりそうなものなのです。

　どういう事か教えて欲しいのです。

　……秘密なのですか。残念なのです。

　関係ない話なのですが、ちょっとよそよそしいのです。どうかしたのです？

　気のせい、なのです？

　ならいいのです。

　探偵さんは私が何をされたのか、きっと知っていると分かっているのです。ですから、気を遣う必要はないのです。

　黄泉比良坂（よもつひらさか）を超えてしまった人は私にどんな影響も与える事はもうできないのですから、思い悩む必要はないのです。

■証言その４

大島麻緒（おおしま　まお）

※一生徒として始業式に出席していて、体育館にいた

　先輩……でいいですよね？

　えっと、先輩は私に何か用があるんですか？

　調べ事をしているので話が聞きたい？

　もしかして、あなたが噂の探偵ですか？　通り魔事件を解決したという。

　なんか私、悪い事しました？

　そうじゃない？　なら、何なんです？

　始業式の時に何を見たのか話して欲しい……ですか？

　あれは、消える魔球です。

　唐突にステージ上に卵が出現した瞬間に空中で卵が割れて、話をしていたおじさんに当たったんです。

　なんでそう見えたか……ですか？

　私、こう見えてもソフトボール部の次期エースとして推薦入学でここに入ってきたんです。動体視力には自信があるんですよ。

　だから、それが真実だと思います。