始業式と生卵 ~白ワニ事件後日談~

第1話 痴女、登場(ver2.0)



 放課後、俺はいつものように屋上で床の上で横になって瞑目していた。


 物思いにふけりたい時はここに来る。


 それが俺の習慣になっているのかもしれない。


 俺が見当違いな推理をしていた大馬鹿野郎であった事が白日の下にさらされたあの日から、もう三週間が過ぎ去ろうとしていた。


 たった三週間だったのだが、その間にめまぐるしく、あの事件の関係者数名が運命、あるいは、偶然によって翻弄されていた。


 全てを自白する前に、藤沼善治郎が拘留中に自殺をした。


 どこから入手したのかテグスで首をくくって自殺していたのが発見されたのだ。


 続いては、尼子美羅なのだが、十日ほど前に母親が離婚した事によって茜色学院を去っていた。


 逃げるようにして尼子美羅は遠くの街へと引っ越ししたらしいのだ。


 古城有紀と同じように誰にも何も言わずに茜色市を去り、どこに行ったのか、尼子家の関係者さえ分かっていないという噂であった。


 そして、尼子宗大が再婚を予定しているらしいとの話がある。相手は、古城有紀の母親で、今現在、身籠もっているのだとか。


 深読みをしてしまうと、身籠もっている古城有紀の母親と再婚するにあたって、財産分与などの面から尼子美羅が邪魔な存在となっていた。


 そのため、藤沼善治郎に金か何かを渡して、尼子美羅を自殺へと追い込むか、始末するよう依頼していたのではなかろうか。


 尼子美羅だけを狙ってはこの計画がばれてしまう可能性があるから、白ワニ事件の関係者を襲うように命令していた。


 その事を察知した古城有紀と尼子美羅が尼子宗大の物語を改稿したのではないか。実行犯であった藤沼善治郎はその事を自白する前に始末された、と。


 だが、やはり深読みのしすぎで、藤沼善治郎が自暴自棄になって尼子美羅達を逆恨みをして動いていただけで、尼子宗大の再婚とは全く関係がないのかもしれない。


「藤沼善治郎が自殺した事で真相は闇の中……か」


 何よりも闇の中なのは、古城有紀だ。


 公立八尾ヶ原高校の制服を着ていたし、公立八尾ヶ原高校に通っていると口にしていたのに、その高校に通っている小学校時代の同級生に話を聞いてみたところ、古城有紀は公立八尾ヶ原高校には入学していないとの事であった。


 狐につままれるとはこのような事を言うのだろう。


 俺はすっかり騙されていたのだ。


 尼子美羅を救うため、嘘で塗り固め、何かあった時のために素性を偽って行動したのであろう。


 何かあった際には、尼子美羅と逃げるためであったかもしれない。


 俺は最初から古城有紀に欺かれていたのだ。


「……はぁ……」


 古城有紀に関しては、何も心配する必要はないのかもしれない。


 おそらくは、今頃は尼子美羅とどこか遠くの街に行って一緒にいるような気がしてならない。


 いや、そうであって欲しい。


 あの二人はそうでなければならないのだ。


「おい、お前!」


 思考の海に深く深く潜りすぎてたい俺は、その声で現実へと引き戻された。


「はぁ? 誰だよ」


 俺の思考を妨げたのは誰だとばかりに目を開くと、そこに広がっていたのは、白い下着であった。


 俺の頭をまたぐようにして仁王立ちしている少女が一人いた。


 しかも、下着を見せつけるようにして、スカートの裾を持ち上げている。痴女か何かか、こいつは。


 というか、こんなに近づかれているのに気づかないほどに俺は考える事に夢中になっていたようだ。


「報酬は受け取ったな。あたしの下着を見たのが探偵、あんたの報酬だ」


 制服から中等部の人間だと分かった。


 なんで中等部の奴が高等部の校舎に来て、俺に下着を見せつけているんだ?


 しかも、報酬ってなんだ?


 頭おかしいんじゃないか、こいつは。


「はぁ?」


「だから、あんたは私の依頼を解決する義務がある!」


 何を言っているんだ、こいつは?



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