第12話 解決前夜(ver2.0)


 神子上典膳というヒントがあったからなのだろう。


 御子神朱里を無理矢理家に帰した後、俺はなんとなくではあったが御子神朱里の援助交際について調べ始めて見た。


 すると、噂の発生源をあっけなく発見できたのである。


『御子神朱里』


 その名前でエゴサーチしてみたが、何も出てはこなかった。


『神子上朱里』


 その名前でエゴサーチしても、やはり何も出てはこなかった。


『神子上あかり』


 ならばと思い、この名前で検索すると、SNSのアカウントが検索結果に現れた。


 どこからその画像を入手したのか、御子神朱里の顔写真がプロフィール画像として使われていた。


 目の辺りにはモザイクがかかっているものの、分かる人が見れば、御子神朱里だと判然と見分けがつく。


 呟きは二日から三日ごとに行われていて、だいたいが、その日どのような男を相手にしたかという呟きで、呟きの最後は『援交相手募集中』と締めくくられていた。


「偶然か、それとも、必然なのか」


 神子上あかりのアカウントが作られて呟き始めたのは、神子上典膳というアカウントが作られ呟き始めたのと同日であった。


 天文学的な数値による偶然の一致なのか、はたまた、必然なのか。


 偶然か必然か、それを見極める必要がありそうだったので、俺は神子上典膳がネットの海に放出している画像をスマホではなく、拡大縮小が有利なパソコンの画面で確認した。


 神子上典膳のアカウントが上げていた画像を検証してみて分かった事は、瀬名が二股をかけている彼女の背の高さは同じくらいである事と、二人とも泣きぼくろがある事であった。


 瀬名は背の高さとホクロの位置で彼女を選んでいるのではないかと思えたほどだ。


 それ以外は、これといった共通点を見いだす事はできなかった。


「瀬名と御子神朱里には接点はないに等しいのか?」


 神子上典膳と神子上あかりのアカウントに共通点があるのならば、どちらのアカウントも八丁堀瀬名について言及していてもおかしくはない。


 だが、瀬名について何か語っているのは、神子上典膳のみである。


 神子上あかりは、あくまでも援交についてしか語っていない。


 表面上、この二つのアカウントに共通点はないが、アカウントの作成日と名字の一致がどうにも気にかかる。


「……いや、待てよ」


 八丁堀瀬名と御子神朱里。


 共通点がないと思えて、実はあったではないか。


「湯河原羽衣だ」


 湯河原羽衣は八丁堀瀬名の彼女であり、御子神朱里は湯河原羽衣を恩人だと語っていたではないか。


 俺には頑なに会わせようとしない瀬名の彼女である湯河原羽衣。


 この共通点である以上、一度会う必要がありそうだ。


「で、どちらが湯河原羽衣なんだろうか」


 会う前に特徴でも掴んではおかないと思って、どちらが湯河原羽衣なのかを当ててみようかと、神子上典膳のアカウントが上げている画像をざっと見回してみる。


「……そうか。そういう事だったのか」


 先入観を持ちすぎたのを俺は思い知る事となった。


 あの発言を受けてか、俺の目にはフィルターがかかってしまっていたようだ。


 そのフィルターを外してしまえば、なんていうことはなかった。


 簡単すぎる謎解きであった。


 香水の匂いに気づいた姫子が言っていた事が事実であると分かり、その観察眼に少なからず驚かされた。


「御子神朱里に裏を取って、瀬名の彼女に会えば事実関係は掴めるか……」


 御子神朱里に、神子上あかり、そして、神子上典膳のアカウントの事を説明するために電話をかけた後、八丁堀瀬名にも電話をした。


 湯河原羽衣について説明したい事があるから会わせてくれと言うと、何故かの説明を求められた。


 被害が出る前に片付けた方がいい問題なんだといったが納得はしてはくれなかったものの、すぐに了承してくれて、一時間後に俺たちが会ったことが分からないような場所で湯河原羽衣と会うこととなった。



                  * * *



「……明日の放課後、ケリを付ければいいか」


 湯河原羽衣との面会を終えて、俺はくたくたになっていた。


 予想した事柄以上のものが出てこなくて拍子抜けしたが、明日には全て終わりそうなので俺は安心しきってしまったのかもしれない。


 部屋に戻るなり、ベッドにダイブして目を閉じた。着替えをしていない事や風呂に入っていない事が気にはなったが、心労がたたってか、すぐに眠りに落ちていた。


「……」


 どれくらい眠ってしまったのだろうか。


 けたたましい電子音で、俺は夢見心地から現実へとたたき出された。


 何の音だ?


 覚醒しきれないまま、部屋の中をキョロキョロと見回すと、着信音である事に思い至った。


 電子音を響かせ続けているスマホを手に取り、画面を見ると、液晶画面には八丁堀姫子と表示されていた。


 窓の外を見ると、朝ぼらけというよりも、すっかり朝の様相ではあった。


「こんな早朝になんだ?」


 電話に出て、投げなりにそう言うと、


「高等部の校舎に入っていく、あかりちゃんを見かけたの……」


 泣き出しそうな切実な声で俺にそう告げた。


「すぐ向かう」


 御子神朱里には『名探偵』だなんだと言われたが、俺は探偵としては半人前のようだ。


 あいつにも分かった事ではあったし、こっくりさんのお賽銭盗難事件を仕掛けた御子神朱里ならば当然答えにたどり着く。


 その事をすっかり失念していて、ペラペラと説明してしまった俺を恨まずにはいられなかった……。


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