第6話 噂好きの男・久堅茂雄(ver2.0)



 まずは、久堅茂雄ひさかた しげおに話を聞くべきか。


 八丁堀瀬名の噂話を俺にしてきたのは彼である。


 噂話の出所がどこなのかを確認するべく、休み時間に久堅に話しかけようと、彼を見やると、久堅はどのグループにも入らずに、黙々とコンビニ弁当をかき込んでいた。


 そういえば、教室内で久堅が誰かと親しげにしている場面などをあまり見た事がないような気がした。


「久堅、ちょっと質問があるんだが」


 そう声をかけると、弁当を食べるのを止めて、目をカッと見開いた。


「お? どうした?」


 俺が話しかけるのを待っていましたとばかりに、久堅はしたり顔であまり親しくもない俺をむかい入れてくれた。


 この噂話を誰かに話したくて仕方がなかったのかもしれない。


「昨日話していた瀬名の噂話って、誰から聞いたんだ?」


「ああ、あの話な。SNSの情報だよ。神子上典膳みこがみ てんぜんっていうアカウントが瀬名がデートしている画像とかをアップしているんだよ」


 話し慣れているかのようにさらりと述べた。


「なるほど、SNSか」


 SNSが噂話の出所というよりも『みこがみ』という名前の響きが心に引っかかった。


『みこがみ』という名字の知り合いか何かがいたような記憶があるのだが、誰だったか。


 思い出せないという事は、さほど親しくなかった小中の同級生辺りだろうか。


「ほら、これ」


 久堅はスマホを取り出すなり、神子上典膳というアカウントの呟きを見せてくれた。


「ほぉ……」


 俺は久堅のスマホを受け取り、つぶやきの内容を確認する。


『二股男発見』


『この男、最悪。女をとっかえひっかえしすぎ』


 つぶやきと言っても、その程度の文章であった。


 数日前の投稿が最新のものらしく、そのつぶやきでは、瀬名と俺よりも年上の女性と親しげにデートしている現場の画像がアップされていた。


 瀬名って彼女といるとこんな表情を見せるんだと新たな発見をしつつ、つぶやきをスクロールさせて過去の発言を辿っていく。


『二股で修羅場中』


 中年の男と言い争いをしているらしき現場の画像が表示され始めた。


 しかも、そのうちの何枚かには、最初というべきか、最新の画像の女性とは異なる、これまた年上らしき女性が一緒に写っていた。


 二股している女性のどちらかと一緒にいるところをその彼女の彼氏に見つかり、修羅場となっている現場なのだろう。


「な? 凄いだろ?」


 同意を求めてくるのだが、最初見せたしたり顔がさらに深まったような印象を受けた。


 久堅って噂話好きだったのか?


「ああ」


 俺は生返事をしながら、神子上典膳の最初のつぶやきを見た。


 日付は一ヶ月ほど前で、こう呟かれている。


『八丁堀瀬名、お前を許さない』


 瀬名に恨みを持つ人間がアカウントを作って、こんな画像をアップしているのだろうか。


 なんのために?


 こんな画像をネットの海に流したとしても、何ら意味がないように思える。


 八丁堀瀬名にダメージが与えられるとでも思っているのか、それとも、もっと別の目的があるのか。


 このアカウントは何か関係あるのだろうか?


 分からないものの、このアカウント主が瀬名に何かしらの害悪を及ぼしていると判明した時に対処すればいいだけの話だ。


「ひどいな、瀬名は。参考になったよ」


 俺はスマホを久堅に返して、まだ何か言いたそうだった久堅をあえて無視して自分の席に戻った。


「……」


 自分の席に座り、目をゆっくりと閉じる。


『みこがみ』という名前がどうにも澱のように沈殿していて、消化不良を起こしているのだ。


 記憶の糸を辿り、そんな名前の人物と何かしらの関係があったか探求していく。


「……あ」


 ようやくその名前にたどり着き、俺は大きく目を見開いた。


 何故、あんな珍しい名字の人物をすぐに思い出せなかったのだろうか。


 漢字は違うが、あの少女の名前は『御子神みこがみ』のはずだ。


 俺が爆弾をしかけてしまったが故に罪悪感を抱き、あの少女の事を思い出さないように記憶にカギでもかけてしまっていたからなのだろうか。


御子神朱里みこがみ あかり


 八丁堀姫子が小学生時代に引きこもる原因となった『こっくりさんのお賽銭盗難事件』の犯人だ。


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