イワシで恋は釣れるのか?
第1話 下駄箱の中にイワシの頭事件(ver2.0)
暑いのか寒いのか、そんな境界線が分かりづらくなってきた五月中旬のとある日。
七時間は寝ていたはずなのに、目を覚ますとけだるさが
何かに巻き込まれているのか、何かが起こっているのか、嫌がらせを受けているだけなのか、分からないまま一週間以上が過ぎていた。その心労がたたっていて、熟睡できていないのかもしれない。
顔を洗っても、朝食を食べても、制服を着て高校に登校しても相変わらずのけだるさで歩くのさえしんどかった。
そんなけだるさを抱えたまま、瀬名は自分の下駄箱を開けた。
「は?」
一瞬、疲れのせいで幻を見たのかと思った。
何故か、焦げ目の付いた干したイワシの頭が下駄箱の中に靴と一緒に入っていたのだ。
「……これは何だ?」
瀬名は小首をかしげた後、下駄箱の扉を閉めて『八丁堀瀬名』という自分のネームプレートがかかっているのを目視した。
「俺のだよな」
この下駄箱が自分のものが明らかになったところで、もう一度開けてみるも、イワシの頭は相変わらず鎮座していた。
どうやらシュレーディンガーのイワシではないようだ。
このイワシの頭には何か意味があるのだろうか?
ただのいじめなのだろうか?
それとも、何かの警告なのだろうか?
イワシの頭を入れる際に、俺の上履きを移動させたのか、上履きに当たらないように気遣った形跡が見受けられる。いかんせん、イワシの生臭さが下駄箱の中に充満していた。
「……」
しばらくそのイワシの目とにらめっこをしていた。
はっと気づいて時計を見ると、そろそろイワシとの正対が時間切れである事を告げていた。
仕方なくイワシの頭をつまみ上げて、ゴミ箱へと放り込み、多少生臭くなっている上履きを履いて、教室へと向かうことにした。
チャイムが鳴るギリギリのタイミングで教室に滑り込むようにして入るも、クラスメイトには変わった様子がない。
あのイワシの頭はたまたま俺の下駄箱の中に入っていたのだろうか。
捨てるのが面倒だからと俺の下駄箱にたまたま放り込んだとも考えられる。
朝のホームルームが始まり、入って来た担任が何やら話をし始めるも、俺はとある事に考えを巡らせていた。
こういうのは、あいつに相談してみるのが一番かもしれない、と瀬名は思った。
イワシの頭に潜む背景まで解決してくれそうな予感もして、一刻も早く相談すべきだと感じた。
八丁堀瀬名は、古くからの友人であり、同じクラスにいる
ここからだと後ろ姿しか見えないが、何やら窓の方に顔を向けて、担任の話も聞かずにぼうっと何かを見つめているようではあった。
意外と性格が悪くて、恨まれ役を買う事の多い友人ではあるが、こういうワケが分からない事に関しては何かと頼りになる奴だ。将来は探偵か何かになった方が幸せになるのではないだろうか。今現在、侮蔑の意味も込めて『探偵』と呼ばれている男である。
昼休みにでも、昼飯にでも誘って相談してみるとしようか。
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