あの時を追って
彼女に初めて声を掛けられた広場に来た。手入れをされていないようで、草が伸び、もう誰もここにはいない。あの時体を預けていた木も、雰囲気が違うように感じる。
初めて声を掛けられた場所。何か、違和感のような、確かめなくてはならないことを忘れているような気がした。
彼女と会ったのは、ここが初めてだったか。あの時よりも前に会ったことはなかったか。
旅を思い出しながら、跡を追い、竹林へと向かう。
水の音がして、私と彼女はそこへ向かうことにした。どこまでも続くと思われた竹林はいつしか雑木林になり、柔らかくなっていく地面を進んでゆくと、細い川があった。川を上るか下るかを彼女は迷っていたようだったが、一度空を見上げると、下ることに決まった。一羽の白鷺が、そちらに飛んで行くのを見て、なるほどとなった。
涼しげな川の伴奏に、彼女はどこか懐かしい鼻歌を唄い、時折二三の鳥が合いの手を入れた。
やがて、深くなっていった林が突然途絶え、一面の湖が現れた。空はいつしか赤くなっており、日が大きくなっていた。月も浮かんでいたが光を投げかけているのはわからなかったし、星のささやかな光は太陽の明るさを前にここまで届くことはなかった。私たちの足はここで止まった。
湖を見ると、私が立っていたが、どんな顔をしていただろう。
湖に映っていた世界が歪む。後ろを見ると、どうやら彼女がオレンジの世界に石を投げたようだった。波紋が広がって、消えていった。
向こうの岸に古い家があるのを見つけた。縁側から湖が見えるようになっており、こちらから中の様子を見ることができたが、どうやら廃屋になっているらしく、人が来なくなったのも昔のようだった。鳥が住処にしており、私たちもここで休むことにした。腰を落ち着けると、すぐに薄暗くなり、またすぐに暗くなった。
ここを照らすのは空と湖にある月光と星光だけだった。しばらく、空を見ていた。高台を見つけ、そこからの景色が見たいと思ったのか、誘われるように登った。
旅を追い竹林に入った私は、耳を澄まして水の音を探すと、そちらに向かった。その先にある細い川を下っていく。気が付けばもう月が出ている。旅路をなぞるほどに、もうほとんど丸くなった月を見ているほどに、眠っていた記憶が呼び起こされていく。
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