メール
――もうじき楽しいはずの修学旅行が終る。
七海の参加していない修学旅行が……
日程を無事何事もなく人数も欠けることもなく順調に生徒を乗せた新幹線は走る。
外を流れる景色は初めはあまり変わることのない景色を映し出していたが、時々高いビルなどが見えてきた。
変えるべき場所へと確かに近づいてはいる。
――その事実が、旅の終る安心感と共に七海のいなかった度という事実が俺にのしかかってきた。
連絡が来たのはあの一度きり……
こちらから連絡をしても何も反応が無かった。電話には着信も入れておいたし、メッセージだって送ってある。それでも七海のいるはずの街に近づいている今になっても、まだ何も返事がない。
はぁ~。
帰り道でも元気なクラスメイト達の声に、俺のため息は消し去られた。
そのまま新幹線は走り続ける。
――あと数十分で目的地まで着くという時間になって。
胸ポケットに入れっぱなしになっていたケータイが着信を知らせて震える。
考える事を半ば放棄していた俺の体は、その振動にすぐには反応を示さなかった。と、いうよりどこか連絡なんて来るはずもないと思ってしまっていた。
「おい勇樹、ケータイ鳴ってないか?」
「え!? そんなわけ……」
胸に手を当てた瞬間に伝わる振動。
同時に胸を打つ鼓動。
「あ……うん。ちょっと良いかな?」
「了解!!」
手を上げながら「サンキュウ」って小さく言って、席後部の連結部分に向かって歩いて行く。その間も自分なりに考える。
――誰からの着信なのか……分かっているような気もするけど、違う時はかなり凹む。着信の相手は七海であって欲しいと心が願っている。
着いてからもケータイを取り出すことに躊躇してしまう。
いつから俺はこんなに憶病になってしまったんだろう?
意を決したように胸ポケットから取り出したケータイ。画面に表示されているのは電話の着信が一件、メールが一件。相手は予想通りというか七海だったんだけど、それはそれで安心できない。
開いたメールに書かれていた事。
[あの時の喫茶店で待ってる]
文章はそれだけ。
――あの時の? 待ってるって今日なのか!?
急いで確認のメールを送る。待つ時間はなくすぐに返信は返っていた。
[今日だよ。帰って来るでしょ? だから待ってる]
見覚えのある街並みが窓の向こう側に見えてくると、焦りのような感覚に襲われた。
それは七海からの連絡で嬉しいのか……それとも会えなかった寂しさなのか……早く会いたいと思う気持ちなのか。
その時の俺には分からなかった。
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