じゃぁ海にいこ!!

 朝、目が覚めても俺の心は晴れなかった。

 昨日ずっと連絡を待っていたのに何も来ることは無かったから。

 そして今ケータイを見つめる俺はもう一度落胆する


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 無常に表示される文字を見つめてため息をついた。


 時間だけが過ぎていく部屋で時計の針の音だけが聞こえてくる。

 いくら見つめても変化のないケータイの表示。


 もう一度ため息をついて重い腰を上げた。

 週が明けた今日は月曜日。

――身体もこころもダメージを負ったとはいえ学校には行かねばならない。間近に迫った修学旅行の事もあり、学校の中では決める事が多い。なるべくならの場に参加しておきたい。


 心ここにあらずなまま着替えて支度をし、朝食を摂るために部屋から出て行く。


「母さん俺のめ……し……」

「あ! おひゃよ」


 目の前でモグモグとクチを動かしながら食パンを食べる見慣れた姿。


「七海?」

「うん? すはったら?」

「お? おお……」

「あら起きてきたのね? 今起こしに行こうかと思ってたところだったのよ」


 ため息をつきながら顔を出して、そんな事を言いながら台所の方へ戻っていく母の後ろ姿を見ながらこの状況が良くわからなくてぼーっとしていると隣から声がかけられた。


「はい!!」

「え!? あ、ありがとう」


 渡された焼きあがったばかりのトーストに眼を落しながらボソッと声が出る。


「何でここに七海が?」

「にゃんでって、迎えに来たから?」

「いや! そうじゃなくてさ……昨日……」


 そういうと隣で両手を合わせる七海の姿が映った。


「おば様ごちそうさまでした!!」

「あら!! 良いのよ七海ちゃん!! いつでもいらっしゃい。こんな子だけどよろしくね」

「それはもちろん!!」


――仲良さそうな二人にかける言葉が見つからず――いや、正確には声をかけずらい雰囲気を出してたから何も言えなくなった――というべきかな。


 手に持ったままのトーストにかじりついた。



 食べ終わるまで七海はテレビを見ながら待っていた。

 近づいていくと俺に気が付いて振り向いた。


「食べ終わった?」

「ああ……そろそろ行かないと」

「あ! そうだね!!」


 飛び上るように立ち上がってニコッと笑顔を向ける七海。

 今のところいつもと変わらないように見える。


「いこ!!」

「うん……」


 いつものように自転車の後ろに乗る七海。

 少し嬉しい気持ちがこみあげてきて顔が緩む。ペダルを目いっぱいのチカラで漕ぎ出して自転車は走り出した。


「レッツゴー!!」

「おう!!」



 自転車は速度を増していく。

 いつもの道でいつも見かける人々を追い越しながら。

 今日は七海の家に行く必要がないから少し時間的に余裕がある。

 ――少し回り道してみようか……


「七海!!」

「なぁに!?」

「時間が有るから回り道しよう!!」

「いいよ!! じゃぁ海にいこ!! うみ!!」

「オッケー!!」


 ハンドルを握り直して向かう方向を変える。

 海の方へ――


 数分後に海岸線に出た。

 いつもの場所。


「勇樹!!」

「あん!?」

「少し降りようよ!!」

「う~ん。まぁいいか!!」


 ブレーキ音と共に速度を落としていく自転車。

 朝の海岸線は割と人がいない。

 もちろん向かう場所へみんなが移動してるからで、時々散歩してる夫婦などに会う程度。

 こうして高校生がいるのあまり見たことが無い。


「海だよ勇樹!!」

「知ってるよ。見飽きるくらいめてるだろ?」

「そうだけど……でもさ!! なんか新鮮じゃない!?」

「う~んそうかぁ? 」

「ね!? 浜に降りようよ!!」


 返事を聞かないで降りていく七海。

 ――なんだろう――何かやっぱり少し……


 自転車を停めて七海の後を追いかけていく。


 ジャリっと砂をかむ靴。

 これから学校に行くので中に入らないように気をつけながら歩く。

 七海は気にする様子もなくはしゃいでいた。


「なぁ七海!!」

「なぁに?」

「風邪とかひいてたんじゃないのか?」

「そうだよぉ! 私病気なんだよぉ 」


――そう言いながらも笑顔を振りまく七海の姿に、それをウソと受け止めた俺は苦笑いしながらも眼を離せなくなっていた。


「そんな元気な病人いるかよ!!」

「本当だもん。昨日ね込んでたんだよぉ」

「風邪だろ? 早めに言ってくれよ!! 昨日迎えに行っちゃったじゃないか」

「ごめんね」


 先ほどまではしゃいでいた七海は急に立ち止まって海の方を向いた。

――表情は見えないけど、少し安心した。

――こうして姿が見えるという事で昨日の事が本当にただの風だったんだろうと考える。


「そろそろ学校に行くぞ」

「うん」


 自転車へと向かう俺の後を追ってくる七海。

 その頬に光る粒は潮風に流れていることを見る事は無かった。


「本当だよ……勇樹……」

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