気のせいだよきっと!!

「 まったく!! 男って!! 」

「 ごめん… 」


 プンスカ怒る七海をなだめながら歩く廊下。

 学校に戻ってきてもなんだか近寄れない雰囲気で…。

 そんな中でもなぜかアイツらに七海の姿を見られなかったという事に安どしてたりする。

 けっこう自己中な考えをを持っていたことに気付いた。


「 見たいの? 」

「 え!? 」

「 私の…水着姿… 」

「 あぁうん見たい。あ、でも、無理してまで見たいわけじゃなくて、っていうかそもそもそれが目的じゃないんだよ 」

「 じゃぁ何よ? 」

「 七海と…二人で海とかプールとかに行きたいなぁって思ってさ 」

「 ッ!! 」


 途端先ほどまで先生と一緒に俺達に詰め寄っていた七海はやっぱりちょっと怖かったけど、今こうして二人だけで話してる時は何時もの七海に戻っている。

 更にいうと今の俺との会話で耳まで真っ赤になって俯いてしまった。


「 そうだね…いけたらいいね!! いつか行こうね!! 」

「 おう!! そうだな!! ってどうした!? 」


 七海の頬に流れる雫…。


 俯いていた七海は恥ずかしがっていると思っていた俺はその雫が作り出した輝きに驚く。

 特に気に障る様な事を言ったつもりは無し…七海の方も言葉的には嬉しそうだった。

 それとも俺だけがまた舞い上がっていただけなのだろうか…。


「 あ、ごめんね…。嬉しくて…えへっ 」


 なんとかごまかそうとして笑顔を作る七海だけど、その先長くは続かず…。

 すぐに大粒の涙が笑顔の頬の上を伝って輝きながら落ちていく。


 場所が学校の中の廊下だという事を忘れて七海を側に引き寄せて胸の前で抱きしめた。


 その中で言葉にせず音もたてずに泣き続ける七海。


 理由が分からないままなので掛ける言葉を思いつくことができない。

 こういう時、気が利く男なら何かを言ったりするんだろうか…マンガの主人公のように。

 俺はそんなカッコ良さなんて持っちゃいない。そのまま胸の前で七海が落ち着くのをただただ黙って待つしかなかった。


 キーンコー…。


 意識の片隅でチャイムが聞こえる。

 それでも構わずその場を動かない。


「 本当にごめん…もう大丈夫だから 」

「 本当か? 」

「 うん、ホントだって!! 」


 ほらって言って大げさにブンブンと腕を振り上げながら笑顔を見せてくれた七海。


「 どうしたんだ? 最近なんか変だぞ? 」

「 そかなぁ? 」

「 うん!! おかしい!! 」

「 う~ん…気のせいだよきっと!! 」


 ここまで言うのなら俺にそれを否定するなんて事は出来ないし…。

 そのまま教室の方へ向かう七海。

 腕時計に視線を移すともうけっこう時間は過ぎている。


 たたたっ


「 え!? 」


 走り出した俺は七海の腕をつかんで何も言わないまま一緒に走り続けた。


「 ちょ!? ちょっと勇樹!? 」

「 行こう!! 」

「 行こうって…はぁはぁ…どこに!? 」


 言葉に応えることなく廊下を走り、そのまま階段も登って…そして屋上に。


「 サボろうぜ 」

「 なんで!? 」

「 なんでって…あのまま入って行ったら注目されるし…それに… 」

「 それに…? 」

「 七海をその顔のままにしておけないだろ? 」

「 勇樹… 」



 太陽の光は二人を容赦なく照らし、少しクラっとする位暑い。


 まだまだ俺達の…この夏は始まったばかりだ。どこに行こうと何をしようとも時間はある。

 だけど今はこれが必要だと思う。


 何もしない…ただそれだけの時間。



 空は青く青く、広く広く続いていた。



「 いえない事だってあるんだよ… 」


 そんな小さな声はその中に吸い込まれて消えた…。

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