誰がいないって?
ウチの学校にはプールがない…。
突然何を言い出すのかと思うかもしれないけど、暑い中であの水の中に入る感じを味わえないのは結構な苦痛に感じるのだ。
最近は節電だなんだと理由をつけて、教室内のクーラーすら時間帯で消されてしまうのだから、なおさら水の中…冷たい中に体が使っている感覚が恋しい。
しかしプールがないのに水泳の時間が有るのがウチの学校で、近くにある市営のプールを借りているらしい。
夏の間の楽しみの一つ。
男女別だからこの時間は二クラス合同になることが多い。
でも男女は別の時間帯に割り振られている。当たり前なのかもしれないけど。
それでもクラスの男子たちの間ではどうにかして一目だけでも見たいと執念を燃やすやつが一人は居るモノで、例外なくウチのクラスにも数人存在する。
元々の性格からすると俺にはそんなことをやろうとする事が羨ましくもある。
「 おい!! 勇樹お前もいかないか!? 」
「 え!? 」
いつも声を掛けている相手と共に突然俺にも声を掛けてきた。
「 おまえだって興味あるだろ? 何しろ遠野さんも行くんだろうからな 」
「 いやまぁ、無いとは言わないけど… 」
「 じゃぁ決まりだ!! 」
「 マジか!! 」
そういうとどの時間からどこに集合するとか詳しい話を聞かされた。
まだ俺的にはいくとは言ってないんだけど、でも興味がないわけではない…男だし。
何より、この水泳の時間は学校指定の水着なるものが存在しないウチの学校では、それぞれが選んだそれぞれの水着を着用することになる。
しかも噂によると、男子の眼がないから結構大胆なモノを着る生徒もいるらしい。
そういえば…俺と七海は良く海辺にはいくけど、水着になる様な所には行ったことが無い。
海はもちろん入らないし、プールにだって行ったことが無い。
誘ったことはあるんだけど、用事があった七海に結局断られてそのまま行けずじまいだった。
だから実は七海の水着姿を一度も見ていないのだ。
ちょっとだけ七海の水着を着ている姿を想像する…。
うん…これはヤバい!!
想像しただけで興奮するんだから現実に目の前で見たらどうなる事やら…。
同じ制服を着た男子が四人でこそこそと並びながらゆっくりと前進する。
ここは市営プールの脇の道路…。
メンバーは俺に話を振ってきた田中とお調子者の佐川、それからなぜか女子にも人気がある柳瀬。
それから結局ついてきてしまった俺。
実はこの棚瀬…。一時期七海といい感じになっていたと噂のあった人物。俺がいるのに七海を好きだと公言しているすごいやつだ。
七海はまったく相手にしてないみたいだけど。そこだけが安心できるところ。でも心配だからついてきちゃう俺ってやっぱり小心者なのかもしれない。
「 どうやらこれから出てくるみたいだぞ 」
「 おい田中!! 急ぐ必要なかったんじゃないか!? 」
「 焦ってはだめだよ佐川君。こういう事は準備が必要なのさ 」
「 そうそう!! 柳瀬の言う通り!! 佐川お前少しウザいな 」
「 ウザって言うな!! 」
なんてしゃべってるけど、そんなに声出したら見つかるんじゃないかとひやひやする。
いや別に水泳を覗いたからって何か特別な罰とかはないけど、授業をさぼってきてるわけで決して褒められる様な行為ではない事は承知している。
市営のプールが割と近いところにあるからこういう事をする男子が減らないわけで…。
――― はぁ~
「 来たぞ!! 」
「 少し頭を下げろ!! 」
市営プールは屋内と屋外に二つずつの泳げる設備があって、大会などにも使用されるくらい立派な建物の中にある。屋内プールは建物的に内側が見えない構造になっているため見る事が出来ないけど、屋外は割と雑な造りになっていて少し高い壁とその上に目隠し用の薄い壁が張り巡らされているだけ。
その隙間からはけっこう中が見えてしまう。
ウチの学校の授業は屋外でと決まっているので例外なく外のプールに出てくることになる。
「 おい見ろよ… 」
「 すげぇ… 」
「 ふんっ 」
隙間から真剣な顔?をしながらのぞく三人を冷めた感じでながめる。
すでにクラスの女の子たちが出て来ているようだ。
「 でもよぉ… 」
「 あれ? いないなぁ 」
「 なぜ出てこない!! 」
呆れたような声で俺が三人に聞く
「「 誰が居ないって? 」」
……。
あれ? 何か声が被ったような…しかも女の子の声?
「 だから遠野さんだよ 」
「 そうそう!! 」
「 それを見るために来たんだぞ!! 」
え~っとその…嫌な予感しかしないんだけど…。
恐るおそる振り返ってみる。
予想通りというか外れて欲しかったというか。
腕を背中に回して微笑んでいる七海がそこに立っていた。
「 おい!! おまえら!! 」
「 なんだようっせーな!! 」
「 今良い所なんだ!! 」
「 なんだい? 君も見たいなら見ればいいだろ? 」
一向にこちらを向こうとしない三人。
俺は背中から冷たい無言の圧力をかけられて、さっきから背中を流れる汗が止まらない。
「 誰を探してるのかなぁ? 」
「 あん!? だから… 」
「 誰って… 」
「 遠野…さ…んを 」
無言のまま俺の隣まで来ていた七海が聞いた言葉に反応した三人は、俺の方を振り向きながら言葉を途中にして固まった。
「 ゆうきぃ~、どういう事かしっかりと説明してもらうからね!! 」
「 はい… 」
俺達四人はプールに併設されている事務所にそのまま連れていかれてサボった事に関してだけ、たっぷりと授業が終わるまでの間お説教されたのであった。
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