ごめんね

高校二年生になった年の最大の行事といえば修学旅行だろう。

 ウチの学校では毎年秋に行われることになっているんだけど、その前に判を決めたりという事が六月に入ったころから動き出す。

 昔は夏休み明けから始めていたみたいだけど、それでは試験などとが日程的に負担をかけるという事で、夏休み前から班行動で動くコースまでを決めてしまうらしい。

 俺は特にこのクラスならば誰と組んでもいい。

 しかし問題は修学旅行の行先も二つあるという事。これは二年生になった四月の時点でアンケートを取り、北海道か京都・奈良どちらかを選択して提出しておかなければならなかった。

 つまり特定の人と特定の場所に修学旅行に行くためには事前に示し合わせておかないと、楽しい思い出にはなりえないのである。


 俺は行先を決めるアンケートにはいつも北海道と書いてきた。その事を七海にも伝えてあるからもちろん七海も北海道と記入していた。

 更に言えば、俺と仲のいい男の何人かは北海道へ七海の仲のいい何人かも北海道へと記入していた。

 上手くいけば仲良しメンバーだけで北海道を見て回れるかもしれない。もともと北海道組は人気が無いと言われていたから、そんなに人数は集まらないだろうと予想していたのだ

 人数が少ない方がより内容も濃く楽しめるというもんだ。


 こんな話を長々としてきたのには理由がある。

 実は今日、班と行動計画を作る予定で行先ごとに集まったのだけど、北海道組はクラスでも三割にも満たない人数で全体でもそんなに多くは無い。


 七海は遅れてくると言っていたけどもう学校には来てるはず…なんだけど…まだ七海の姿を見つける事が出来ない。


 まさか京都・奈良にかえていたのか…と、その集まりの方へ視線を向けても七海の姿は見当たらなかった。


 キョロキョロしてると先生から一言。


「 あぁ~そういえば今日は遠野は休みだったな。確か北海道組になっていたはずだから、いるという前提で計画決めてくれ 」


 この日の朝、ウチを出て七海の家に向かっている途中で七海から電話が来て、俺には遅刻しそうだから先に行ってといわれていた。

 学校に来た時にはすでに七海かのじょは欠席すると連絡がはいったらしい。

 高校生活の中でも大イベントの行動計画作成という楽しい時間に七海という主要メンバーが関与しない事で、クラスの北海道組のメンバー内では少し計画立案に不安があったけど、その場にいない七海が後で聞いても納得してもらえるような計画には一応作れたとは思う。

 後で七海に連絡してこの事を伝えようと思う。

 メンバーのみんなが七海の為にもって考えてくれたことが俺にも嬉しかったから。


 しかし七海が学校を休むのが少し増えたような気もする…。


 今日の事だけじゃない…最近突然連絡が来て休む事が有るのだ。月に一度だけど一日か、二日というような感じで。


 それも気になる。


 聞いてもちゃんと答えてくれるかはわからない。七海かのじょは俺にはウソをつかないと約束してくれた。だから俺は七海が言ってくれることを疑わないしそれを信じたい。



 それに…。


「 ゆうきぃ~!! 」


 俺に会う時の七海のはじけるような笑顔が変わることがない。


「 おう!! お待たせ 」


 七海の表情が曇っていくような俺が言えるはずもないんだけど。


 この笑顔が大好きだから。


 何もなかったように今日も自転車をこぐ俺の後ろには楽しそうに笑う七海がいる。

 それだけで充分な気がした。


「 なぁに? 」

「 え!? 」

「 なんか突然静かになったから… 」

「 何でもないよ。うんまぁその、昨日の班を決める事とか考えてたんだよ 」

「 あぁ~修学旅行のね!! 私もそこで話したかったなぁ 」


 後ろで本当に残念そうに話す七海。俺も昨日の事を話すうちに考えていたことを忘れて夢中になって話した。


 だから…七海がどんな顔して話をしていたのかはわからなかったんだ…。




 体に回した腕にぎゅっと力を込めて抱きつく七海。

「 ごめんね……勇樹… 」


 小さな声で囁いた七海の声は楽しそうに話す勇樹の声に打ち消されて彼の耳に届くことは無かった。

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