海辺の約束

「 おはよう! 勇樹!! 」


 いえの前で元気にブンブンと手を交差しながら俺の名前を大声で呼んでいるのはいつも通りの七海だ。

 おかげで周りに住む人達からも「勇樹」クンと呼ばれてしまっている。

 顔も知らない名前も知らないおばさんや子供まで…。


「 七海 」

「 なあに? 」


 自転車の後部で楽しそうに歌を口ずさんでいる七海に話しかける。


「 さっきのいい加減やめてくれ 」

「 さっきの? 」

「 大声で名前呼ぶやつ 」

「 やだ!! やめなぁ~い!! 」


 脚をブンブンと振る七海。

 そのたびにぐらぐら揺れる自転車。


「 こ、こら!! あぶねぇだろ!! やめろ!! 」

「 あははははは!! 」


 俺の顔はクチから出る言葉とは逆ににやけていた。自分でもそれは気付いている。

 何よりこの状態、後ろに七海を乗せていることが嬉しかったから。


「 それよりこの三日間どこに行ってたんだ? 」

「 ん~、今は内緒!! それよりなんか学校に行くの緊張するよぉ~ 」

「 あぁそりゃそうだろうなぁ。クラスの連中とかから質問攻めされるんじゃね? 」

「 あははははは。それは嫌だなぁ~ 」


 そんなたわいもない会話をしながら自転車は海岸沿いを学校へ向けて疾走する。


 七海がいない時間がこんなに長いと感じたことが無かった。

 電話は来たりメッセージが出来たりと、その向こう側にはその存在が感じられていた。

 こんなに連絡が取れず声も聞こえない事なんてなかった。

 だから…正直寂しかったし不安だったのだ。


 でも、実際にこうして七海に会って話しているとそんなもんがあったことでさえ忘れてしまう。

 やっぱり二人でいる事は楽しい。

 それに安心する。


 俺には七海が必要なんだ…。


 そう思わせてくれた三日間だった。




 学校についたらやっぱりみんなに囲まれて全然身動き取れなくなった七海。

 それをただ苦笑いしながら見ている俺。

 ただただ七海の人気の高さにビックリするしかない。


 普通の学校生活に戻るには数日かかったけど、朝と放課後は一緒にいるからそんなに困ったり不安になったりすることは無かった。


 しばらく経ったある日の放課後、温かくなってきた潮風に誘われるように二人で海岸に降りた。


 寒さに負けない熱い恋人同士はもうすでに何組か海岸に来ているのは見かけていた。


 そんな中の一組に今俺太一はなっている。

 結構恥ずかしいけど、周りはみんなそんな感じの二人組だらけだし、今更七海といる事を見られてもいいかなって思ってしばらく二人で並んでただ海を見つめながらベンチに腰を下ろしていた。


「 なぁ…七海。聞いてもいいか? 」

「 ん? 」

「 どうしてこの前休んだの? 」

「 え!? どうして? 」


 何となくそんな言葉がクチから出てしまった。

 本当に何気なく考えないで出ただけだったけど、その時の七海の反応が少し気になった。


 落ち着かないというか…どこか悲し気なその横顔に…。


「 聞きたい? 」

「 え!? 」


 そう言った七海の表情がなんというか…はかなげだった。


「 本当に聞きたい? 」

「 え!? う~ん… 」


 俺は海の方を向いて考える。


 七海の表情からすればコレは聞いて欲しくないんだろうな…。

 聴けばたぶん答えてくれるだろうけど、でもその答えが何だろうと関係ないような気がする。確かに学校を三日間も休むなんて今までの七海には考えられないけど、でも去年も確か一日とかは普通に学校を休んでたし、もしかしたら七海の家に関係することなのかもしれない。そうなら今の俺には口出しするなんてできないしどうすることもできない。


「 いや、いいよ。言いたくなったら七海の事だから言うだろうし、俺には全然関係ないことかもしれないしな。だから…いい 」

「 そう…か。うん、私は勇樹にはウソは言わないよ。約束する 」

「 うん。わかった。だからもう聞かないよ 」

「 良かった… 」


 そう言って海の方を見つめる七海は夕日に照らされてすごく綺麗だった…。



 この時ちゃんと話を聞いてれば君は答えてくれたのかなぁ…。



 それから七海は時々学校を休むようになっっていった…。

 この時くらいから俺と七海が一緒にいれる時間が減っていたんだ。 

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